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【コラム】(プロファイバンカーの視座)第45回 PF組成しやすい事業(31)「資源型」と「電力型」以外の事業

2020.02.13 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


石油化学事業と石油精製事業は「資源型」事業でも「電力型」事業でもなく、従ってプロジェクトファイナンス案件として組成するのが難しい、ということについてもう少し説明したいと思う。

例えば、石油化学事業の典型としてエチレンプラントの事業がある。エチレンは通常ナフサを原料とする(注)。ナフサの多くは石油を精製した際に採取される。ナフサを原料としてエチレンを製造するわけであるが、ナフサは市場で取引されているので、ナフサの価格も常に変動している。エチレン製造業者にとってはナフサの価格が上がると原料代が嵩み、エチレン事業の収益を圧迫する。一方、ナフサから製造したエチレンであるが、エチレンも市場で取引されているので、エチレンの価格も市場で常に変動している。従って、エチレンの価格が上がれば収益も上がるが、エチレンの価格が下がると収益も下がる。もっとも、原料のナフサの価格が上がったとしても、生産物のエチレンの価格もそれに応じて上がってくれれば、事業の収益は確保できそうである。同様に、生産物のエチレンの価格が下がったとしても、原料のナフサの価格もそれに応じて下がってくれれば、事業の収益は確保できそうである。ここまでは難しい理屈はなく、理解しやすい。

さて、現実に起こる問題は少々複雑で意外である。現実に起こる問題は、原料のナフサの価格の動きと生産物のエチレンの価格の動きとが必ずしも並行していない(パラレルに動かない)という問題である。つまり、原料のナフサの価格は上がっているのに、生産物のエチレンの価格はさほど上がらない、という現象が実際に起こる。また、生産物のエチレンの価格は下がっているのに、原料のナフサの価格は下がらない、という現象も実際に起こる。これは原料ナフサの需給関係と生産物エチレンの需給関係はかならずしも一致していない、という事情から発生するようである。中長期で見てゆくと、原料ナフサの価格の動きと生産物エチレンの価格の動きとは概ね並行してゆく(パラレルに動く)ようではある。しかし、1年や2年程度の短期では並行していない(パラレルに動かない)ことが多い。このために、短期の期間とはいえ、この間に事業が収益を生まず、ひどい時には大赤字を出すことさえある。キャッシュフローは不足を来たし、プロジェクトファイナンスによって調達した資金の約定弁済を行うことができず、デフォルトを起こすのである。

それでは、石油化学事業において、こういう資金ショートは一体いつ起こるのか。その資金ショートの金額規模は一体どのくらいになるのか。資金ショートを起こした時に、どのくらいの期間耐えれば市場は回復するのか。こういったことが予め分かっているのであれば、対処のしようもあろうかとは思う。しかし、こういったことはもちろん事前に予測できるものではない。

石油精製事業も似た性格を持っている。原料となるのは原油である。原油を精製して、ジェット燃料、ナフサ、ガソリン、軽油、灯油、重油などの生産物を製造する。石油精製事業の場合、生産物の種類が複数あるので、やや複雑さが増す。もっとも、石油精製事業における主要な生産物は自動車等に使用されるガソリンである。そして、石油精製事業も石油化学事業に似た性格を持っていると指摘したのは、原料となる原油の価格の動きと主要生産物のガソリンの価格の動きとが必ずしも並行していない(パラレルに動かない)からである。特にガソリンの価格は、一般の消費者に与える影響が大きく、下落するぶんには消費者にとって問題はないが、高騰でもしようものなら社会問題になりかねない。新興国の多くで、ガソリンの価格は政府が補助金を投入するなどして統制している。一方、原油の価格は、中東情勢の緊張などによって急騰することがある。要は、石油精製事業者が望むようには、原油の価格の動きとガソリンの価格の動きとを並行に保つことは容易ではない。従って、石油精製事業の収益は、不安定を余儀なくされる。

以上をまとめると、石油化学事業と石油精製事業は、原料価格の動きと生産物価格の動きとが必ずしも並行していない(パラレルに動かない)ため、安定的な収益の確保が難しい。従って、事業の分類としては「資源型」事業でも「電力型」事業でもなく、プロジェクトファイナンス案件として組成するのは難易度が高い。

(注)北米ではシュールガス(天然ガス)を原料とした石油化学事業が勃興している。シェールガスが大量にかつ安価に供給できるようになったからである。また、住友化学のサウジアラビアのラービク石油化学事業も同国産出の安価な天然ガスを原料としている。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Ivan Bandura on Unsplash

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