【コラム】(プロファイバンカーの視座)第39回 PF組成しやすい事業(25)「資源型」と「電力型」の比較

2019.11.14 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


いまでも筆者の記憶に残るプロジェクトファイナンスの英文融資契約書がある。それは米国の銅鉱山会社フリーポート・マクモラン社(Freeport-McMoRan)をスポンサー(出資者・事業主)とする融資契約書である。融資の資金は同社が当時開発しようとしていたインドネシア・パプア州に在るグラスバーグ(Grasberg) 銅鉱山の開発資金に使用される。融資契約書の日付は1980年代の後半だった。筆者がこの融資契約書を見たのは1991年頃のことで、邦銀の本店プロジェクトファイナンス部に勤務していた時である。どうして筆者は当時この契約書を見ていたのかは今では思い出せない。

しかし、どうしてこの融資契約書のことがいまでも記憶に残っているのかということであれば、饒舌に説明できる。その理由は、まずスポンサーが米国の会社であったことである。スポンサーが米国の会社にもかかわらず、筆者が当時勤務していた邦銀と米銀の2行でリードアレンジャーを務めていたからである。米銀と一緒とはいえ、当時の邦銀が米国のスポンサーのプロジェクトファイナンス案件でリードアレンジャーを獲得するという例は極めて珍しかった。現在でさえ、そう頻繁に起こることではないと思う。おそらくインドネシアの案件だったので、米銀が戦略的に共同リードアレンジャーに邦銀を招聘したのかもしれない。さらに、この融資契約書を見た筆者の記憶が固定化することになったのは、その数年後に筆者が米国駐在となり、フリーポート・マクモラン社の別な案件を採り上げるなど同社と直接やり取りする機会に恵まれたからである。

さて、フリーポート・マクモラン社の話しから始めたのには訳がある。それは、この会社は元々小規模な資源開発会社であったが、プロジェクトファイナンスを利用してインドネシアの銅鉱山の開発を成功させ、世界有数の銅鉱山会社にまで成長を遂げたからである。資源開発事業で占める「資源型」事業では、当初スポンサーは小規模な会社であっても、プロジェクトファイナンスを利用して当該資源開発事業を成功させ、後刻立派な資源会社に成長している例が少なくない。フリーポート・マクモラン社は間違いなくその好例の一つである。これは「資源型」事業の特性の一つと言える。

もう一つ実例を挙げるとすれば、オーストラリアの西豪州パースに本社を置くウッドサイド・エネジー社(Woodside Energy。Woodside Petroleumから社名変更している)である。同社は1950年代にオーストラリア・ヴィクトリア州で設立され、当初ヴィクトリア州近郊の石油開発を手掛ける小規模な石油開発会社であった。西豪州での大型ガス田発見を機に西豪州でのガス田開発に注力する。これが当社初かつオーストラリア初のLNG(液化天然ガス)事業となるNorth West Shelf (NWS) Projectである。NWS Projectの開発資金調達にはプロジェクトファイナンスが利用された。現在のウッドサイド・エネジー社はオーストラリア最大のエネルギー会社である。因みに、日本の政府系金融機関である国際協力銀行(当時は日本輸出入銀行)が初めてプロジェクトファイナンスでの融資を行った案件がNWS Projectだと言われている。これも1980年代後半のことである。

では「電力型」事業で、フリーポート・マクモラン社やウッドサイド・エネジー社のような事例はあるのであろうか。筆者はちょっと思い当たらない。電力事業(主に発電事業)を代表とする「電力型」事業ではプロジェクトファイナンスの借主となった会社が後刻斯界の大手事業会社に成長したという例はほとんどないようである。「電力型」事業の性格からも考え難い。「電力型」事業は長期のオフテイク契約によって成立する事業なので、終始長期オフテイク契約に則って操業されてゆく。長期オフテイク契約の期間が満了すると、その事業は一旦終了ということになる。長期オフテイク契約の期間が満了しても事業資産(例えば発電所の資産)はまだ利用可能であろうから、操業自体は続けられることが多い。しかし、例えば新興国の発電事業の例では、長期オフテイク契約の期間満了に伴い事業資産が同国の国営電力会社に譲渡されることが多い。発電事業を担った事業会社(プロジェクトファイナンスの借主)がフリーポート・マクモラン社やウッドサイド・エネジー社のように独立した企業として成長してゆくという事例はほとんど見られない。

つまり、「資源型」事業の事業会社(プロジェクトファイナンスの借主)は後刻斯界の大手企業に成長してゆくということがあり得るが、「電力型」事業の事業会社はそういうことはまず起こらない。この点も「資源型」事業と「電力型」事業の大きな違いの一つである。

参考資料)
フリーポート・マクモラン社のHP https://www.fcx.com/
ウッドサイド・エネジー社のHP https://www.woodside.com.au/

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Alex Plesovskich on Unsplash

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