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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第20回 番外編 南の国から#RWC2019 南アフリカ特集

2019.11.07 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


 2019年9月から、1か月以上にわたって開催されたラグビーワールドカップが閉幕した(決勝戦は2019年11月2日)。優勝は南アフリカ共和国(以下、南アフリカ。チーム名はSpringboks)であった。あいにく筆者は海外在住中のため、日本における盛り上がりを直接体験する機会は無かったものの、従前から予定していたヨハネスブルグ訪問が、たまたま南アフリカの優勝直後のタイミングと重なった。優勝の余韻が残る11月4日~5日にかけて、筆者がヨハネスブルグで面談した南アフリカ人からは(年齢、性別、肌の色等を問わず)、ラグビーに対する熱気を感じることが多くあった(サンプル数は約30人)。

 前回2015年には日本(チーム名はBRAVE BLOSSOMS)が、南アフリカ相手に、一般的には番狂わせと呼ばれる勝利(いわゆる「ブライトンの奇跡」をあげた。そして今回2019年には、日本が準々決勝で敗れた相手である南アフリカが優勝した。というような経緯もあり、直近2回のラグビーワールドカップを通じて、初めて、あるいは改めて南アフリカに興味を持ったという方もおられるであろう。

 そこで今回は急遽予定を変更し、「番外編」として、ヨハネスブルグから南アフリカ特集をお届けすることとしたい。コラム第19回の続き(プロジェクトカンパニーの税務(2))は、次回以降に改めてお届けする。

南アフリカ経済の概要

 南アフリカはアフリカ諸国の中では経済規模で大きな存在感を誇る。人口は約5,778万人、GDPは約3,663億ドル(2018年)である。ちなみにアフリカ最大の人口大国はナイジェリアで(人口は約1億9,500万人)、近年は名目GDPでもナイジェリアが南アフリカを上回っている。 (参考資料:外務省 国・地域情報https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/africa.html

 コラム第16回および第17回ではTICAD 7(第7回アフリカ開発会議)について触れたが、南アフリカは、その経済規模や発展段階からして、基本的に日本にとって「開発を支援する」対象ではない。

 南アフリカは、アフリカに進出する多くの日本企業にとって、域内最大級の重要な市場であり、また周辺(特にサブサハラ)アフリカ諸国進出のための生産・営業拠点であると言える。例えばトヨタは南アフリカに自動車生産工場を有し、南アフリカで生産した自動車を周辺のアフリカ諸国に輸出している。またアフリカにネットワークを張り巡らしている総合商社も、アフリカ地域組織の本社機能をヨハネスブルグに置くケースが多いようである。

 首都はプレトリアであるが、経済・商業活動の中心は最大都市であるヨハネスブルグである。現在の大統領は、2019年11月2日のラグビーワールドカップ決勝戦(@横浜)の時にも来日していたラマポーザ大統領。アパルトヘイトを終わらせたマンデラ大統領(1994年~1999年)、ムベキ大統領(1999年~2008年)、ズマ大統領(2009年~2018年)に続いて2018年に就任した。通貨はランド(Rand)で略称はZAR。ZARはトルコリラ(TRY)と並んで高金利通貨として有名なので、インフラトの読者諸氏にも、スワップポイント狙いのFX(通貨)取引でおなじみの方もいるだろう。

 南アフリカは金やダイヤモンドなどの鉱物資源を産出する資源大国でもある。一方で失業率が27%(2018年)と高く、直近では2019年11月1日にMoody’sがソブリンの長期外貨建て債の信用格付け(投資適格級では最低水準のBaa3)の見通しを「安定的(Stable)」から「ネガティブ(Negative)」に引き下げるなど、経済には脆弱性も見られる((注)S&PはBB、FitchはBB+と、既に投資不適格まで格付を引き下げており、Moody’sによる投資適格級の格付けが、いわば「最後の砦」のような状況になっている)。国営電力会社エスコムの経営難や電力供給問題も経済の制約となっている。

(写真は2019年11月4日付の南アフリカの新聞を筆者が撮影したもの。
ラグビーワールドカップ優勝をたたえる記事が一面にあるものの、経済面ではソブリン格付け見通しの引き下げが報じられているなど、ラグビー優勝を手放しで喜べない事情が伺われる)

アフリカの主要金融機関(市中銀行、ECA及び開発系金融機関)

 南アフリカの主な市中銀行にはFirst National Bank(“FNB”。傘下のRand Merchant Bankを含む)、Standard Bank、Nedbank、ABSA Bank等がある。南アフリカ国内のインフラプロジェクトであれば、規模にもよるものの、南アフリカの市中銀行だけでファイナンス組成(=シニアローン部分の調達)することも十分可能である。なおStandard Bankは、イギリスおよび香港に本拠を置くStandard Chartered Bank(SCB)とは別の銀行である点に注意されたい。

 邦銀の南アフリカへの進出およびサブサハラにおけるインフラプロジェクト案件への融資実績は、筆者の知る限りでは現時点では限定的である。メガバンク各行は、MUFGはFNB、SMBCはABSA、MizuhoはStandard Bankと其々提携しているものの、ヨハネスブルグ拠点はロンドン支店またはドバイ支店の出張所、という位置付けになっており、実際のローン案件のブッキングはロンドン拠点等から行っている模様である。

 南アフリカのECA(Export Credit Agency)としては、日本のNEXI(日本貿易保険)に相当する組織として、ECIC(Export Credit Insurance Corporation)がある。ECICは、NEXIのバイクレ(バイヤーズクレジット)保険や、海外事業資金貸付保険と同様のスキームを提供する。つまり、南ア企業がEPC Contractorとしてインフラプロジェクトの建設を請け負う際に、市中銀行のプロジェクト向け融資を保証することによって、南ア企業による輸出を支援・促進する(但し当該保険には、当然保険料がかかる)。

 ECICに加えて、開発金融機関も存在する。Development Bank of South Africa(南アフリカ開発銀行、DBSA)やIndustrial Development Corporation of South Africa(IDC)が該当する。両行とも南アフリカ政府を株主とする政府系金融機関であるものの、IDCは元々産業(Industrial)関連を投融資の対象としてきた(所管官庁はEconomic Development Department)。一方で、DBSAはインフラ関連(所管官庁はMinistry of Finance)を対象としてきたという歴史的経緯がある。エネルギー(発電を含む)分野は、両行のマンデートの対象で重なるため、同じプロジェクトに、両行が融資を行うというケースも実際に存在する。

 サブサハラでのエネルギー関連のインフラプロジェクトファイナンスの組成にあたっては、案件サイズ(金額)が小さければ南アの大手市中銀行2~3行で組成。比較的大規模なプロジェクトになると、南アの市中銀行(ECIC保険付き)と開発系金融機関(南アのDBSA、IDCと欧州系(例:オランダ開発銀行(FMO)等)からの融資の組み合わせ、というのが最近の典型的なファイナンス組成のパターンの一つであると言える(他にアフリカ開発銀行(AfDB)や、World Bank系のOPIC等が参加する場合もある)。

 上述の通り、南アフリカのソブリン格付けはMoody’sでBaa3(見通しはNegative)、S&PとFitchは既に投資不適格級であり、各市中銀行の長期外貨建て債券の格付けも、ソブリン格付けが実質的な上限となる。また通貨(ZAR)の脆弱性もあり、南アフリカの市中銀行のドル資金調達コストは安いとは言えない。このため、南アフリカ国内で完結するZAR建て案件であればともかく、クロスボーダーの(=南アフリカ国外での)米ドル建て案件の場合、南アフリカの市中銀行が提供する米ドル建てシニアローンのマージンは、高めになりがちである(他に融資を提供できるレンダーが少ない=競合が少ない、という事情もある)。

 本邦企業が主なスポンサーとして関与する、東南アジアや中東のインフラプロジェクト案件であれば、JBICとメガバンクをはじめとする邦銀で融資の大半を比較的低コストで調達、というケースが多い。これが、サブサハラとなると、(ODAやバイクレを除けば)少なくとも現時点ではそうはいかない、というのが実情である。

 つまり本邦デベロッパーにとっては、「(比較的)低コストのJapanese fundingを引っ張ってくる」という、東南アジアや中東ではお得意の機能が、南アフリカやサブサハラでは現時点では十分には発揮できないということであり、Japanese funding調達以外の存在意義・機能発揮が求められる環境にあると言える。

 以上、今回はラグビーワールドカップにおける南アフリカの優勝に触発されて、当初予定を変更して、南アフリカ経済の概要や主要金融機関等について、ヨハネスブルグからお届けした。これまで南アフリカにあまり馴染みがなかったインフラトの読者の方にとって、参考になれば幸いである。なお筆者は南アフリカの駐在経験はなく、ここ数年、西アフリカの某国から出張で10数回(+1回観光で)訪れた経験が本コラムのベースである。

番外編の更に番外編

 (今回話題になったラグビー以外の)南アフリカ出身のスポーツ選手と聞いて、インフラトの読者諸氏は誰を思い浮かべるであろうか? 筆者の場合、1990年代後半から2000年代前半にかけてK1(打撃系格闘技)のリングで活躍した、キックボクシング出身の故マイク・ベルナルド氏である(残念なことに、格闘家としての現役引退後の2012年に、42歳の若さで亡くなった)。

 身長190㎝超の大柄な白人で「剛腕」「南アフリカの大砲」と言われ、スキンヘッドの一見「こわもて」の外見でありながら、某TVCMに「切れてなーい」というフレーズで登場するなど、お茶目な側面も見せていた。(注;某安全カミソリのTVCMで、髭剃りの後でも物理的に顔が「切れていない」という文脈であり、最近引退した(元)プロレスラーの長州力氏の「切れてない」(=ブチ切れてない)とは文脈が異なる。余談ついでに、長州氏の「切れてない」は、某有名お笑い芸人によるモノマネで知った方がほとんどと思われるが(筆者もその一人である)、元々は1995年に行われた新日本プロレスとUWFインター(いずれも当時)との東京ドームでの対抗戦での、安生氏との試合の後のコメントであった(当時、長州氏は43歳))。

 ゴルフ好きの方であれば、Ernie Els(アーニー・エルス)かも知れない。プロゴルファーとして成功した彼は、南アフリカワインの産地として有名なStellenbosch(ステレンボッシュと発音する。ケープタウンの近郊)に、自分の名前を関したワイナリーを開いた。日本からStellenboschを訪れるのは、遠くて費用も時間もかかる(例えば羽田からドバイまで約12時間+乗継+ドバイからケープタウンまで約10時間)が、最近は日本でも南アワインがネット通販等で気軽に手に入るようである。

 まだ南ア産のワインを飲んだことがない、というワイン好きの方は、これを機に一度試してみてはいかがだろうか?ZAR(南アフリカランド)安もあり、円ベースでは比較的安価に高品質のワインが手に入るかもしれない。きっとこれまで以上に南アフリカのことが身近に感じられることだろう。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

*アイキャッチ:ヨハネスブルグ(サントン地区)のネルソン・マンデラ・スクエアにて筆者撮影

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