【コラム】(プロファイバンカーの視座)第38回 PF組成しやすい事業(24)「資源型」と「電力型」の比較

2019.10.24 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


これまでの議論の大きな流れを復習しておきたい。まず、プロジェクトファイナンスが成功裏に組成された案件を観てゆくと、概ね「資源型」事業と「電力型」事業に分かれる。プロジェクトファイナンスが概ね「資源型」事業と「電力型」事業に分かれるのは理解したとして、次にそれでは「資源型」事業と「電力型」事業とはどう違うのか。これがいま行っている両者の比較の議論である。そして、「資源型」事業と「電力型」事業との比較を行う上では、特に「電力型」事業の場合、その典型例として電力事業(主として発電事業)を想定することが多かった。

 「電力型」事業の典型例が電力事業であることに疑いの余地はない。しかし、「電力型」事業とはそもそも長期のオフテイク契約が存在し、その契約の中で事業収入を安定させる仕組みがある事業のことである。そうすると、電力事業が典型例ではあるものの、「電力型」事業は他の分野の事業にも存在する。既に本連載で石油・ガス分野の「電力型」事業を見てきた。石油・ガス分野の「電力型」事業には、例えばLNG船(液化天然ガスを運搬する専用船)やFPSO(エフ・ピー・エス・オー、Floating Production and Storage Offloading system、浮体式石油生産・貯蔵・搬出設備)の事業がある。

これまでの「資源型」と「電力型」との比較の議論では、「資源型」は輸出主体のため米国ドルで事業収入を得られるのが強みだと指摘し、一方電力事業は国内向けの事業で、新興国では現地通貨の下落リスクを回避する目的で電力代金につき「米国ドルリンクの現地通貨払い」の手法を採ると指摘してきた。しかし、国内向け事業というのはどうしてもホスト国の経済状況への依存を余儀なくされる。これは如何ともし難い。従って、万が一ホスト国の経済状況が著しく疲弊すると、たとえ「米国ドルリンクの現地通貨払い」の手法を施していたとしても抜本的な問題解決にならないことがある、という点も指摘した。

電力事業が国内向け事業だということ、従って新興国で行う場合には現地通貨の下落リスクを回避するため「米国ドルリンクの現地通貨払い」の手法を採ること、そうは言ってもホスト国に甚だしい経済危機が起ころうものなら進退窮まること、等々は免れ難い現実である。ところが、こういった問題は実は「電力型」事業全般に広く見られる現象ではない。というのは、先に挙げたLNG船事業やFPSO事業は長期のチャーター契約が存在するので「電力型」事業に分類されるが、これらの「電力型」事業は発電事業とは随分様相が異なっている。具体的にはLNG船事業やFPSO事業は洋上で業務を行っているので、国内向け事業というわけではない。チャーター代金は通常米国ドルで受領するので、現地通貨下落リスク云々という問題は存在しない。そして、ホスト国の経済危機云々という問題もあまり考えられない。

ホスト国の経済危機というところは少々補足しておきたい。LNG船事業については、例えばLNGバイヤーの所在国の経済状況が急変してLNG輸入を減少させる、従ってLNG船の傭船も間引きしたい、というような状況の発生は理論的には考えられる。しかし、これまでにそういう事態が実際に発生して大事に至ったという実例は寡聞にして聞いたことがない。LNGバイヤーの所在国は先進国が多いという点がその理由であろう。

また、FPSO事業の場合であるが、これは洋上で石油採掘・生産を行う事業なので、実は石油の開発生産プロセスの一翼を担っている。FPSO事業そのものは長期のチャーター契約に基づいて行う事業なので「電力型」事業ではある。しかし、ホスト国の経済危機に対する耐性は強く、その強さは資源開発事業一般とほぼ同等である。つまり、石油の生産はその輸出によって外貨を稼げるので、経済危機が起こってもホスト国政府から事業継続を強く望まれる。アジア金融危機が起こったインドネシアでは同国の銅鉱山事業やLNG事業はほとんど影響を受けなかったと既に指摘した。それらの事業に融資をしていたプロジェクトファイナンスレンダーも融資の返済を何の問題もなく受け続けることができた。FPSO事業は資源開発事業と同様に、仮にホスト国に経済危機が発生したとしても、その悪影響から免れやすい事業である。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

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