【コラム】(プロファイバンカーの視座)第36回 PF組成しやすい事業(22)「資源型」と「電力型」の比較

2019.09.26 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


新興国における国内事業で事業収入について「米国ドルリンクの現地通貨払い」の手法を採るのは常套手段である。新興国の通貨の下落リスク(一般に為替リスクという)を回避するためには必要である。しかし、この手法が機能しないこともあるという教訓はやはり衝撃である。機能しないこともある理由を突き詰めてゆくと、電力事業のような専ら国内向け事業は究極その国の経済状況に依存しており、万が一同国の経済状況が急転してしまうともうどうにもならないからである。これは国内事業の宿命である。

この点、輸出事業が主体の「資源型」事業は強い。「資源型」事業が相手にしている市場は世界の市場である。たとえ「資源型」事業の所在国が新興国であろうと、生産物を購入しているのは海外のバイヤーである。さらに、プロジェクトファイナンスが対象にする「資源型」事業は石油、天然ガス(LNG)、鉄鉱石、銅、ニッケルなどの代替物のほとんどない天然資源を扱っている。100年単位の超長期での需給状況は予想が困難だとしても、事業期間に相当する20年程度のスパンでは需給状況が急変することは現在のところ考え難い。しかも、こういう天然資源を購入するバイヤーは日本をはじめ所得の高い先進国が多い。LNG(液化天然ガス)はその好例であろう。LNGが生産されている国には新興国も少なくないが(もちろん現在では米国や豪州のような先進国も生産しているが)、LNGを購入している電力・ガス会社等は日本をはじめ先進国が多い(最近中国の購入も急増している)。

もっとも、「資源型」事業の所在国が新興国であることが多いという点は留意しておきたい。既にパプアニューギニアの事例には言及したが、このほかロシアやナイジェリアのLNG事業、南米チリの銅鉱山などもその例である。最近はアフリカ・モザンビークでのLNG事業が注目されている。「資源型」事業はその生産物の販売を世界の市場に対して行う。そして、その事業収入が米国ドルである。販売先が世界の市場である点と事業収入が米国ドルである点は「資源型」事業の強みである。一方、事業所在国が新興国になることが多いという点は玉に瑕である。これは事業者にとってもプロジェクトファイナンスレンダーにとっても悩ましい。

「資源型」事業は所在国が新興国であることが多いというのは、事業者やプロジェクトファイナンスレンダーにとって常にマイナス要因なのか。これは少し立ち止まって、考えを巡らす価値がありそうである。というのは、国内向けが主体の電力事業も「資源型」事業も所在国が新興国ではあっても、両者とも同国のために裨益する事業である。つまり、両者の事業ともホスト国からは歓迎されている事業である。しかし、ホスト国の経済危機など経済状況に一旦緩急ある場合にはどうであろうか。国内事業である電力事業は間違いなく多大な影響を受ける。既に約20年前のアジア金融危機の際のインドネシアの石炭火力発電事業の実例に触れた。ホスト国側としては電力代金の支払いを無碍に拒むつもりはなかったと思うが、「無い袖は振れない」「お金がないから払えない」という二進も三進もいかない状況だったのである。

ところが、「資源型」事業の方はホスト国の経済危機が発生しても、ほとんど影響を受けない。理由は輸出事業だからである。操業が継続され生産物が出荷できている限り、事業は安泰である。ホスト国の経済危機はあまり関係ない。関係ないどころか、輸出によって外貨を稼げるので、むしろ「資源型」事業はホスト国政府から事業継続を強く望まれる。アジア金融危機が起こったインドネシアでも同様の現象が確認された。当時インドネシアの銅鉱山事業やLNG事業はほとんど影響を受けなかった。それらの事業に融資をしていたプロジェクトファイナンスレンダーは融資の返済を何の問題もなく受け続けることができた。

つまり、事業所在国の経済状況が悪化すると、国内事業主体の「電力型」事業は甚大な影響を免れないが、「資源型」事業はほとんど影響を受けない。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

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