【コラム】（プロファイバンカーの視座）第48回プロジェクトファイナンスの参考図書（1）

2020.03.26 連載コラム

ナレッジパートナー：井上義明

プロジェクトファイナンスに関わる仕事をされている方から、ときどき参考図書について相談をお受けすることがある。「どういう本を読んだらいいですか」といった相談である。プロジェクトファイナンスの仕事は実務家の仕事なので、「習うより慣れよ」という部分はもちろん多い。けれども、一方で英語をはじめ業界知識などさまざまな関連知識も蓄えておく必要がある。プロジェクトファイナンスは事業向けの融資なので（企業向けの融資と対比される）、対象となる事業に関する知見を深めることが重要である。そういう意味では、企業向け融資に要する知見と事業向け融資であるプロジェクトファイナンスに要する知見とはかなり異なる。企業向け融資の知見は財務分析等が中心となり、それらはもちろんプロジェクトファイナンスでも必要であるが、プロジェクトファイナンスに要する知見はそれらをさらに超えたところにあると言っても良いと思う。

書名に「プロジェクトファイナンス」とある書籍を読んでおくのはもちろん必要である。日本語で書かれたプロジェクトファイナンスの書籍もあるし、英語で書かれたものもある。さらに、英語の書籍を日本語に翻訳したものもある。しかし、これらの書籍の数は、実はそう多くはない。現在手に入るプロジェクトファイナンスの書籍は英語・日本語のもの両方合わせても、せいぜい10冊程度ではないだろうか。そして、プロジェクトファイナンスの業務を多少でもご経験された方は感じておられるのではないかと推察するが、書名に「プロジェクトファイナンス」とある書籍だけを読んでいても、プロジェクトファイナンスの仕事が満足にできるようになるわけではない。言うなれば、プロジェクトファイナンスの書籍を読んでおくのは必要条件ではあっても、十分条件ではない。

そこで、今回（1冊）と次回（3冊）このコラムの場をお借りして、プロジェクトファイナンスの仕事に役立つと思われる関連書籍をご紹介したいと思う。新型コロナウイルスでビジネスが停滞しがちなのは残念ではあるが、こういうときは慌てず焦らず、自己研鑽のチャンスと思って、期せずして得た時間を読書に充てるのもいい。ご紹介する書籍はいずれも比較的最近出版されたものから選んでゆく。ここでご紹介する書籍はあくまで一例であって、「こういう分野の書籍を読んでおくと、プロジェクトファイナンスの仕事に幅が出てくる」といった程度でご理解頂けると幸いである。

●田中靖浩『会計の世界史』日本経済新聞出版社（2018年）

この本はかなり版を重ね、多くの人に読まれている。現在でも書店に並んでいる。従って、既に読まれた方もいらっしゃるかもしれない。著者は公認会計士でおられる。

この本をお勧めする理由は、おそらく会計について最も興味深く読める本のうちの数少ない1冊だと思うからである。恥ずかしながら、筆者は会計というものについて過去なかなか興味を持つことができなかった。仕事上ある程度の理解は必要だと分かっていても、会計の勉強があまり愉しく感じることがなかった。

本書の著者は「会計は歴史を知ると興味が持てる」ということに早くから気付かれたようで、そのお考えが本書に結実している。そして、本書を一読すれば、著者の「会計は歴史を知ると興味が持てる」という事実に多くの人が共感するのではないかと思う。筆者のように会計に苦手意識を持っている人も、本書をきっかけに会計に興味を持ちさらに造詣を深められると良いと思う。なお、本書には数多くの面白いエピソードが出てくる。これらは間違いなく雑談のネタにも使えそうである。（次回に続く）

プロジェクトファイナンス研究所
代表　井上義明

*アイキャッチ　Photo by Susan Yin on Unsplash