【コラム】(プロファイバンカーの視座)第61回 キャッシュフロー・コントロール手法(12) 基本モデル

2020.10.08 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


(3)デッドサービス・リザーブアカウント(Debt Service Reserve Account)

キャッシュフロー・コントロール手法の基本モデルの3つ目はデッドサービス・リザーブアカウント(Debt Service Reserve Account)である。英語の頭文字を採ってDSRA(ディー・エス・アール・エイ)と短く呼ぶこともある。デッドサービス・リザーブアカウントは準備金口座の一つである。何のための準備金口座かというと、プロジェクトファイナンスによる借入金の約定元利返済金のためのものである。デッドサービス・リザーブアカウントの目的は、万が一事業会社(借主)の事業収入が著しく減少するなどして約定元利返済金の支払いに支障を来たすようなことがあったとしても、この準備金口座に用意しておいた資金で当座の約定元利返済金を支払うためである。

さて、デッドサービス・リザーブアカウントについてまず論じなければならないことは、この準備金口座にはどのくらいの資金を用意しておけば良いのかということである。多くのプロジェクトファイナンス案件では、向こう6か月分の約定元利返済金に相当する金額を用意するのが普通である。デッドサービス・リザーブアカウントは通常「6か月分」と理解して頂いて構わない。もちろん、これにも例外は見られる。筆者の見聞では、短いものでは「3か月分」という事例があったし、長いものでは「12か月分」という事例もあった。「3か月分」の事例は、チャーター契約書(Charter Agreement)に基づく事業で、事業収入の安定が見込まれていたために「3か月分」で良しとしたものであろう。「12か月分」の事例は、石油製油所の事業で、この事業は逆に事業収入が不安定だったので、レンダーが「12か月分」を求めたものと思われる。資金負担あるいは資金効率という借主の観点からは、「6か月分」より「3か月分」の方が好ましい。デフォルト発生を防ぐというレンダーの観点からは、「6か月分」より「12か月分」の方が好ましい。借主とレンダーの双方の利害を調整した結果として、「6か月分」が標準になったものと考えられる。

次に、デッドサービス・リザーブアカウントへの資金(例えば向こう6か月分の元利返済金)の用意はいつまでに行えば良いのであろうか。これは通常事業の操業に必要なプラント等の建造物が完工するまでに行えば良い。プロジェクトファイナンスのレンダーは通常建設期間中についてはスポンサーから債務保証をもらう。つまり、完工まではリコース・ローンである。完工を以ってノンリコース・ローンに切り替わるのが普通である。そして、リコース・ローンがノンリコース・ローンに切り替わる「完工」の定義の中に、デッドサービス・リザーブアカウントへの資金の用意が含まれる。従って、デッドサービス・リザーブアカウントへ資金を用意するのは完工までを期限とするのが普通である。

もっとも、これにも例外はある。典型的な例外は、事業が完工し操業を開始してからデッドサービス・リザーブアカウントへの積み立てを順次開始してゆくという方法である。事業が完工し操業を開始すれば事業収入が生まれる。その事業収入の中からデッドサービス・リザーブアカウントへの積み立てを行おうとするものである。この方法は借主にとっては資金効率が良い。事業から得られた資金を順次デッドサービス・リザーブアカウントへ積み立ててゆくので、予め資金を自分で用意する必要がない。しかし、レンダーにとっては完工までに資金をすべて用意しておく通常の場合と比べて、ややリスクが増える。なぜなら、デッドサービス・リザーブアカウントへの積み立てが完了する前に万が一事業会社が資金不足を起こすと、デッドサービス・リザーブアカウントがその本来の役割を果たさないからである。従って、事業が完工し操業を開始してからデッドサービス・リザーブアカウントへの積み立てを順次開始してゆく方法は、借主(事業主)にとっては好都合ではあっても、レンダーが歓迎するものではない。

最後に触れておきたいのが、デッドサービス・リザーブアカウントの代替方法である。デッドサービス・リザーブアカウントは上記の通り、銀行口座に資金を用意しておくものである。その資金に対しては預金金利程度の付利がなされるが、資金が銀行口座に滞留するので資金効率はけして良いものではない。そこで、資金効率を向上させるために借主側がしばしば望む代替方法が銀行保証書(Bank LC)の発行である。例えば、向こう6か月分の約定元利返済金の金額と同等の金額の銀行保証書を準備し、これをプロジェクトファイナンス・レンダーに差し入れる。これを以ってデッドサービス・リザーブアカウントの代替とし、デッドサービス・リザーブアカウントへの資金の用意はやめる。こうすることにより、デッドサービス・リザーブアカウントに用意するはずだった資金をリリースすることができる。借主にとっての資金効率は間違いなく向上する。また、プロジェクトファイナンス・レンダーにとっても、銀行保証書を受け取るわけであるから、信用上の問題はない。借主がデッドサービス・リザーブアカウントに代えて銀行保証書の差し入れを提案すれば、プロジェクトファイナンス・レンダーはこれを拒む理由はない。(この稿続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ フォトスティーブン・シェイファーUnsplash

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