【コラム】(プロファイバンカーの視座)第50回 キャッシュフロー・コントロール手法(1)

2020.04.23 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


今回からキャッシュフロー・コントロール手法について採り上げる。まず、プロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法とは何か。それは何のためにあるのか。つまり、内容と目的について説明したい。

プロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法というのは、プロジェクトファイナンスを利用している事業会社(レンダーから見ると借主)のキャッシュフローをコントロールする手法や工夫を総称したものである。キャッシュフローをコントロールするというと、少々大袈裟に聞こえる。キャッシュフローをコントロールするというのは、具体的には、まず事業会社に入ってくるキャッシュフローを漏れなくすべて把握すること(入りを量る)、それから事業会社から出てゆくキャッシュフローを制御すること(出ずるを制す)である。「入りを量りて出ずるを制す」(*1)という古い言葉がある。キャッシュフロー・コントロール手法は、まさに「入りを量りて出ずるを制す」ための手法・工夫の総称である。

次に、プロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法は何のためにあるのか。「何のためにあるのか」と問う前に「誰のためにあるのか」という問いを先に答えた方が良さそうである。プロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法は専らレンダーのためにある。これはレンダーが求めていることである。それでは、レンダーはなぜキャッシュフロー・コントロール手法を必要とするのか。それは、レンダーはノンリコースで事業会社に融資を行っているからである。レンダーはノンリコースで事業会社に融資を行っているため、融資の返済原資を事業会社(借主)が創出するキャッシュフローのみに頼らなければならない。事業会社(借主)が創出するキャッシュフローだけが融資の唯一の返済原資なのである。従って、事業会社の収入はすべて把握できているのか(入りを量る)、事業会社の支出は適切に行われているのか、支出の優先順位は適切か(出ずるを制す)ということに意を用いているのである。仮にキャッシュフロー・コントロール手法が無かったならば、(レンダー思いの借主ばかりでもない限り)おそらくレンダーの融資の返済はどうなるか分からない。プロジェクトファイナンスはノンリコースの融資なので、借主以外の者(例えば、借主に出資している出資者(スポンサー))に返済を求めることもできない。

プロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法は専らレンダーのためにある、と述べた。「専らレンダーのため」と述べたが、レンダー以外にも恩恵を受ける者はいるのか。プロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法はレンダーが創り上げて来たものなので、専らレンダーのためのものではあるが、結果的にこの手法の恩恵を受ける者がレンダー以外にもいる。例えば、事業会社(借主)へ出資している者(スポンサー)のうち、事業会社の事業や経営に関わっていない者である。事業会社へのマイナー出資者である。お金は出すが、口は出さない(事業や経営に関与しない)出資者である。こういうマイナー出資者は、プロジェクトファイナンスのレンダーが課すキャッシュフロー・コントロール手法の反射的な利益(*2)を受けていると言える。

 (*1)「入るを量りて出ずるを為す」とも言う。出典は礼記(らいき)。礼記は、周から漢にかけて儒学者がまとめた礼に関する書物で、五経の1つ。

 (*2)反射的な利益あるいは反射的利益という言葉は民法、行政法で使われている言葉である。本来制度が意図した恩恵や利益ではなく、いわばおこぼれの恩恵や利益の意味である。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by John Gibbons on Unsplash

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