【コラム】(プロファイバンカーの視座)第41回 PF組成しやすい事業(27)「資源型」と「電力型」の比較

2019.12.12 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


2011年4月から2019年3月までの過去8年間の日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件の情報を収集した。ここでいう「日本企業関連」というのは、日本企業が出資をしているという意味である。出資比率の多寡は問わない。日本企業が出資している事業の事業会社が借入金としてプロジェクトファイナンスを利用した案件を「日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件」と定義する。

過去8年間の日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件は全部で69件確認された。実際にはこれよりもう少し多いのではないかと推測される。なぜなら、筆者が確認できなかった案件も当然世の中には存在する可能性が高いからである。しかし、今回の調査の目的は、プロジェクトファイナンスの組成しやすい事業が主に「資源型」事業と「電力型」事業に大別される、ということを確認することである。この目的のためには一部の案件を取りこぼしても問題はなかろうと思う。

さて、確認された69件のプロジェクトファイナンス案件の組成額(融資額)の合計は1,057億米ドル(USD105.7Billion)である。日本円に換算しておおよそ11兆4千億円(USD=108円で換算)に及ぶ。膨大な金額である。11兆4千億円を案件数69で割ると、1,650億円になる。これが1案件当たりの平均組成額(融資額)ということになる。さらに、総事業費のうちプロジェクトファイナンスによる借入金の比率が平均70%(出資金が30%)と仮定すると、日本企業が関わった海外事業の総事業費の合計は16兆3千億円相当(11兆4千億円/0.7)と推定できる。

69件のプロジェクトファイナンス案件のうち、58件(84.1%)が「電力型」事業で、8件(11.6%)が「資源型」事業で、いずれにも該当しない案件が3件(4.3%)であった。件数で見ると「電力型」事業は圧倒的に多い。件数ベースではプロジェクトファイナンス案件の8割以上が「電力型」事業である。「資源型」事業は1割強に過ぎない(表1およびグラフ1)。

【表1】

【グラフ1-案件数】

次にプロジェクトファイナンス案件の組成額(融資額)で見てゆくと、少し様相が異なってくる。組成額合計1,057億米ドルのうち、「電力型」事業は637億米ドル(60.3%)、「資源型」事業は311億米ドル(29.4%)、その他が109億米ドル(10.3%)である(表2およびグラフ2)。

【表2】組成額の単位はUSD10億ドル(Billion)

【グラフ2-組成額】

組成額で見ると、「電力型」事業は約6割で「資源型」事業が約3割になる。案件数で見たときには「電力型」事業は8割を超え、「資源型」事業が1割強に過ぎなかった。これは「資源型」事業の一案件当たりの組成額(融資額)が「電力型」事業の一案件当たりの組成額(融資額)よりも大きいことを意味する。例えば、2012年に融資契約書が調印されたイクシスLNG案件(「資源型」事業)の融資額は200億米ドルにも及んだ。一案件で2兆円を超える融資額である。一案件の「電力型」事業では考えられない規模の融資額である。

こうして実際のデータで見てゆくと、成功裏に組成されたプロジェクトファイナンス案件は見事に「電力型」事業と「資源型」事業に大別されることが分かる。プロジェクトファイナンスは「電力型」事業と「資源型」事業から成っているということが実証的にも確認することができる。

最後に「その他」の案件について言及しておきたい。表1およびグラフ1と表2およびグラフ2には「その他」が出てくる。「その他」というのは「電力型」にも「資源型」にも分類できない事業である。今般の調査では案件数69件のうち3件(4.3%)、組成額合計1,057億米ドルのうち109億米ドル(10.3%)が「その他」であった。この3件はどういう案件であったのか。この3件のうち2件は石油化学事業である。もう1件は石油精製事業である。石油化学事業や石油精製事業は時折プロジェクトファイナンスを利用することがある。しかし、石油化学事業も石油精製事業も「電力型」や「資源型」に分類できない事業である。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

【バックナンバー】
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第40回 PF組成しやすい事業(26)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第39回 PF組成しやすい事業(25)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第38回 PF組成しやすい事業(24)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第37回 PF組成しやすい事業(23)「資源型」と「電力型」の比較

【コラム】(プロファイバンカーの視座)第36回 PF組成しやすい事業(22)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第35回 PF組成しやすい事業(21)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第34回 PF組成しやすい事業(20)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第33回 PF組成しやすい事業(19)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第32回 PF組成しやすい事業(18)「資源型」と「電力型」の比較
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第31回 PF組成しやすい事業(17)「資源型」と「電力型」の比較

【おススメ!】
セミナーのご紹介:『 海外プロジェクトファイナンス・パック【電力編】+【資源編】』の開催 (2019年12月5日、12日)
セミナーのご紹介:『 第4110回 海外プロジェクトファイナンスの実務【基礎編】 』の開催 (2019年12月20日)

, , , , , , , ,


デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

月別アーカイブ