2024.12.12
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第2回 プロジェクトカンパニーの設立と運営(1)
2019.02.07 連載コラム
前回のコラムでは、キャッシュ・フロー・モデルの「実務能力の習得・向上には、実践と座学の組み合わせが有効」という筆者の考えについて、拙著の紹介と共に記載させて頂いた。今回から数回はモデルから離れ、インフラのグリーンフィールド案件における、プロジェクトカンパニーの設立および運営の実務上の留意点について、論じてみたい。
インフラのグリーンフィールド案件とは、新規にインフラ施設の(企画・設計および)建設から運営までを行う案件のことをいう。プロジェクトファイナンスを利用する場合には、レンダーからのローンとスポンサー(株主)からのエクイティによる新規の資金調達を伴うのが基本形である。プロジェクトボンドの発行や、メザニン等を利用する場合もあるが、今回のテーマは資金調達オプションについてではないので、詳細は割愛する。
これに対して、施設建設済・運営中の案件に参画する場合をブラウンフィールド案件という。当初グリーンフィールド案件に参画していたスポンサーが、何らかの理由で事業期間終了を待たずにExit(持ち分を売却)すれば、その持ち分を購入した新スポンサーはブラウンフィールド案件に参画したことになる。
不動産案件に例えれば、土地の仕入れ・建物の建設・リーシング(テナント付け)からテナント入居後の運営までを行う新築物件への投資がグリーンフィールド案件。一方で建物が完成し、テナントが入居済の中古物件(を保有する会社の株式)を旧オーナーから購入するのがブラウンフィールド案件。といえば、インフラ案件やプロジェクトファイナンス関連用語に馴染みが少ない方にとってもイメージがわきやすいだろうか。
このようにインフラ案件と不動産案件は共通点が多い。というよりも、広義の「不動産」のうち、特殊なアセット(資産)クラスの一つが「インフラ施設」という方が、投資家、特に機関投資家の目線に合っていると言えるかもしれない。
なおブラウンフィールド案件に参画するということは、(株式譲渡スキームを前提とすれば)運営中のプロジェクトカンパニーの株主になるということである。つまり買収検討時のデューデリジェンス(Due Diligence)、バリュエーション(Valuation)や買収実施後のPMI(Post Merger Integration)、会計上の留意点等については、対象会社が保有している主な資産がインフラ施設(および権益)という点以外は、一般のM&A案件と共通する。例えば昨今話題になった「負ののれん」も、別にRIZAPのような事業会社に限った話ではなく、インフラ関連のブラウンフィールド案件でも起り得る話である。インフラのブラウンフィールド案件の実務については、後日触れてみたい。
話をインフラのグリーンフィールド案件に戻そう。スポンサーとして新規インフラ案件開発を行うデベロッパー、レンダーとして新規案件組成を担う金融機関のフロント、金融機関ないし独立系のファイナンシャル・アドバイザー等、多くの関係者にとっては、ファイナンス・クローズ(Finance Close)の達成が大きなマイルストーン(節目)となる。
ファイナンス・クローズとは、融資関連契約に調印し(ドライ(Dry)Close)、貸出先行要件(Conditions Precedent、以下CP)を充足、ないし一部のCP充足をレンダーに猶予(Waive)してもらって、初回のローン実行(ウェット(Wet)Close)を実現することを指す。経験者には頷いてもらえると思うが、Dry Closeを達成してから、実際にCPを充足し、Wet Closeを実現するのは、結構大変なことがある。インフラトの読者諸氏の中にも、期限までにCPが充足されず、やむを得ず一部のCPをCSにせざるを得なかったという経験がある方もおられるかもしれない。
なおCSというのは、Customer Satisfaction(顧客満足度)でもなければ、衛星放送のCS(Communications Satellite)でもなく、ましてやプロ野球のClimax Series(クライマックス・シリーズ(和製英語と思われる))でもない。Conditions Subsequentの略である。「CPがMet出来なくてCSにしてもらったけど、それも無理でPermanent Waiverにしてもらうようネゴ中」と言っている人がいたら、それは「ローン実行前に充足すべき要件を満たせなかったので、当該要件の充足期限をローン実行後に延長してローンを実行してもらったが、それでも要件の充足が無理なので、恒久的に要件を免除してもらうよう、交渉中」という意味である。プロジェクトファイナンスに限らず、業界用語は業界外の人に取ってはわかりにくい一方で、業界関係者の一体感を高めるのかもしれない。
次回のコラムでは、なぜファイナンス・クローズが多くの関係者にとって重要なマイルストーンとなるのか。にもかかわらず、プロジェクトカンパニーにとっては、ファイナンス・クローズは長い事業期間の始まりに過ぎないという点について、実務上の留意点と共に記載する。
注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
桶本賢一
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