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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第14回 プロジェクトカンパニーの財務諸表作成の実務 その1(IAS、IFRSおよびIFRIC)

2019.08.01 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


 前回は第1回から第12回の総集編をお届けした。今回は第12回「プロジェクトカンパニーの会計上の損益」の続きとなる。会計基準の選択について、第12回のコラムで、「株主がIFRS(International Financial Reporting Standards、国際会計基準)を採用している場合には、プロジェクト所在国の会社法が許すのであれば、プロジェクトカンパニーもIFRSを採用するのが望ましい」と記載した。IFRSの日本語訳として「国際会計基準」としたが、これは「国際財務報告基準」と記載すべきであった。というのは、IFRSとは別に、IAS(International Accounting Standard、国際会計基準)が別途存在するからである。

 ところで、そもそもIFRSおよびIASとは何であろうか?IFRSの実務に詳しい方や、2010年代以降に会計に関する正規の教育プログラムを受けた方にとっては当たり前過ぎる内容かもしれない。とはいえインフラトの読者は専門や年齢層が幅広いので、「IAS・IFRSって何それ?」という方もおられるであろう。ということで今回は、プロジェクトカンパニーの財務諸表作成や、連結を行う株主側の実務に触れる前に、まず「IFRSおよびIASとは何か?」という点から、伝統的な日本の会計基準との違いを含め、触れてみたい。

 IFRSについては様々な書籍やサイトで解説がされているが、日本取引所グループのウェブサイト(https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/ifrs/index.html)には以下のようにまとめられているので、そのまま引用する。

「IFRSとは、International Financial Reporting Standardsの略称で、邦訳は国際財務報告基準といいます。IASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)が作成している会計基準です。IASBの前身であるIASC(International Accounting Standards Committee:国際会計基準委員会)が作成した基準はIAS(International Accounting Standards:国際会計基準) と呼ばれ、第41号まであり、現在も有効です。IASBが作成した基準はIFRSと呼ばれ、第17号まで作成されています。IASとIFRSを総称し、IFRSsとも記します。」
(引用終わり)

 IASとIFRSに加え、IFRIC(IFRS Interpretations Committee、IFRS解釈指針委員会)というのもある。IASやIFRSが会計「基準」という上位概念なのに対して、IFRICはIFRSの「解釈指針」である。会計を専門にしていないインフラトの読者諸氏におかれては、とりあえずIAS、IFRS、IFRICという用語だけ覚えて頂ければ十分である(実務では例えば、IAS第39号(金融商品:認識および測定)、IFRS第9号(金融商品)、IFRIC第12号(サービス委譲契約)といった具合に、会計基準や解釈指針の具体的な条文・事例を参照することになるが、これは次回以降で触れることとする)。

 これらの用語の読み方(発音の仕方)は、IASはそのまま「アイエーエス」と読むのが一般的なのに対し、IFRSは「イファース」ないし「アイファース」または「アイエフアールエス」という読み方が混在しているようである。IFRICの読み方は「イフリック」で統一されているようだが、これは一説によると、「アイフリック」と読むと、「I XXXX」という4文字言葉の禁句に似てしまう(から「イフリック」で統一された)、ということらしい。

 IFRSが本邦企業に利用されるようになった歴史は浅く、日本で初めてIFRSを適用した連結財務諸表を含む有価証券報告書が提出されたのは、2010年6月であるとのことである(参考資料:https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-general-2.html)。日本取引所グループのウェブサイト(https://www.jpx.co.jp/listing/others/ifrs/index.html)によれば、2019年7月時点で、上場会社3,675社のうち、IFRS適用済ないし適用決定会社数の合計が214社とのことなので、約6%がIFRS適用済ということになる。

 なおプロジェクトファイナンスのレンダーは、一般的に会計上の利益よりも、キャッシュフローに基づく各種指標(DSCR(Debt Service Coverage Ratio)等)の方を重視する。よってレンダーの実務としては、IAS・IFRS・IFRIC等に基づいて作成されたプロジェクトカンパニーの財務諸表の財務分析は、キャッシュフロー関連の分析や制限条項に劣後する。実際、レンダーが要求するキャッシュフローモデルでは、伝統的な会計基準に基づく財務三表(貸借対照表(Balance Sheet)、損益計算書(Profit and Loss Statement)、キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement))はあっても、インフラ事業に特有の会計基準や解釈指針に基づく財務諸表をモデルに含めるよう求められた経験は筆者には無い。

 しかしながらプロジェクトカンパニーとしては、(仮にレンダーに要求されなくても)IFRSを適用済の株主にあわせて、IFRSベースでの財務諸表を作成することがある。プロジェクトの性質、適用する会計基準・解釈指針によっては、事業開始前の工事期間中から収益(売上)が計上されるという、伝統的な会計基準では容易には理解しがたい事象も起り得る。次回以降ではこうした事例についてとりあげてみたい。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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