【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第11回 エクイティIRRの限界例(2)

2019.06.20 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


 前回に引き続き、インフラプロジェクトの収益性の指標としてエクイティIRRを利用する場合の限界や、実務上の留意点について考察する。

エクイティIRRの限界 その1 予想は嘘よ?

 前回のコラムで記載した通り、エクイティIRRは、試算時点での過去の実績および将来のキャッシュフロー予想に基づいて計算される。つまり将来のキャッシュフローが、試算時点の「予想」(よそう、逆から読んだら「うそよ!」)から乖離すれば、当然ながらエクイティIRRも試算時点の値から乖離することになる。

 仮想のインフラプロジェクトAでは、ベースケースのエクイティIRR 17.23%が、コストオーバーラン(10%の総工費上振れ、全額エクイティが負担)と、完工=キャッシュインフローの1年遅延により、10.29%まで低下するとの試算結果であった。この例から明らかなように、エクイティIRRは、試算時点でのキャッシュアウトフローおよびインフローの実績および予想によって、数値に大幅な変動が生じうる。

 このため投資実行後は、時間の経過と供に、定期的にキャッシュフローの実績値と予測値をアップデートし、試算し直すことが肝要である。特にエクイティIRRが投資検討・実行時点よりも顕著に低下した場合には、低下した要因を特定し(上記の例であればコストオーバーランと、完工遅延によるキャッシュインフローの遅れ)、エクイティIRR改善のための各種施策を検討・実行することになる。

 投資実行後にエクイティIRRを改善するには、トップライン(売上)を伸ばすか、コストを減らすか、ファイナンス(資金調達・返済)条件を変更することによってキャッシュインフローの改善を図ることになるが、これらの具体的な内容については、後日改めて考察する。

エクイティIRRの限界 その2 規模感を把握できない

 エクイティIRRの次の限界は、プロジェクトや収益の規模感を把握できない点である。仮想のプロジェクトAには、通貨単位が記載されていなかった点を思い出して頂きたい。総工費300の単位が十億円なのか、億円/千万円なのか、百万円/十万円なのかで、同じエクイティIRRであっても、投資実行(を検討)出来るかどうかは自ずと異なってくる。

 仮に単位が十億円であると仮定しよう。この場合、総工費3,000億円の巨大プロジェクトということになる。エクイティの総額は、3,000億円×30%=900億円と巨額になるので、ごく限られたプレーヤーが、「他スポンサーとの共同出資で投資を検討」ということになるだろう(複数のスポンサーが出資する場合の、株主間協定書の実務上の留意点については、第4回および第5回のコラムを参照されたい)。シニアローンの総額も3,000億円×70%=2,100億円と巨額になるので、市中銀行だけでは対応出来ず、ECA(Export Credit Agency)による保証ないしDirect Loanとの組み合わせになると思われる。

 単位が億円の場合はどうだろうか?この場合、総工費は300億円(エクイティ90億円、シニアローン210億円)となる。プロジェクトファイナンスを組成するには、コストも手間もかかるが、これくらいの規模感であれば、(条件によるが)案件としては成立する可能性が高いだろう。エクイティは1社、シニアローンはECAなしの市中銀行数行のみで組成出来るかもしれない。単位が千万円なら総工費は30億円となり、国内の太陽光発電等であれば、プロジェクトファイナンスベースの案件でも組成実績のある規模感となる。

 単位が百万円の場合、総工費は3億円となるので、プロジェクトファイナンスを組成する手間やコストに見合わず、大手事業法人を含む機関投資家にとっては正当化が難しい規模になるが、富裕層の個人投資家や中小規模の事業法人であれば検討に値する規模感だろう。単位が10万円なら、総工費3千万円と、サラリーマン個人の投資対象になる規模感になる。

 このようにエクイティIRRだけでは、プロジェクト/投資の規模感が判断出来ない。仮に期待エクイティIRRが高くても、規模感が間尺に見合わなければ投資の対象にならないこともあるだろう。例えば同じソブリンリスクで、期待エクイティIRR12%、総プロジェクトコスト1,000億円の発電事業案件と、期待エクイティIRR 14%、総プロジェクトコスト100億円の造水事業案件がある場合、後者の方が期待エクイティIRRは高くても(14%>12%)、入札や案件組成、プロジェクトカンパニー運営の手間やコスト等を考えると、規模感的に後者よりも前者を採択、という判断をする場合もあるだろう。というのは、仮に総工費の規模が10分の1であっても、プロジェクト組成・運営の手間はそれほど変わらないからである。

エクイティIRRの限界 その3 プロジェクト所在国や機能通貨の考慮が必要

 エクイティIRRの限界の3つ目が、プロジェクト所在国のカントリーリスクや機能通貨への考慮なしでは、異なるプロジェクト間のApple to Appleの比較が困難な点である。以下のような3つのプロジェクトを想定してみる。いずれも同業種・同期間のソブリンリスク案件で(例:期間20年のIPP)、規模感や、国別の与信枠(カントリーエクスポージャー)に問題がないと仮定する。

*ソブリン格付けは外貨建て長期

 機能通貨が同じ米ドル建てであれば、インドネシア案件ではXX%、ベトナム案件ではYY%といったApple to Appleでの比較が可能である(ソブリンリスクの違いからXX%<YY%になるはず)。ところがベトナム案件の期待エクイティIRR YY%(米ドルベース)と、南アフリカ案件の期待エクイティIRR ZZ%(南アランドベース)は、そのままではApple to Appleの比較が困難である。というのは米ドルと南アランドでは金利水準が大幅に異なるからである。この場合、不動産投資では一般的に利用されているイールドギャップ(期待利回りと長期金利の差)と同様の考え方も必要になってくる。

 実務の現場では、投資を検討する担当者がこうした比較検討に必要以上に悩まなくて済むよう、所在国・機能通貨・業種等を勘案したハードルレートを設定し、「期待エクイティIRRが、ハードルレートを上回れば投資検討可」とすることで、エクイティIRRの限界に対応しているケースが多いと思われる。

 以上、2回にわたってインフラプロジェクトの収益性指標としてエクイティIRRを利用する場合の限界と留意点について記載した。次回はいよいよ収益性指標の王様「PL」が登場する予定なので、「PLファン」の方はお楽しみに。

追伸

 前回のコラム執筆・公表後に、「予想は嘘よ」というタイトルのJ POPのアルバムを発見した(2017年発売)。ギタリストのビジュアルがなかなか刺激的であった。なおバンドの公式Websiteに記載されている同アルバムの出荷枚数と、拙著の発行部数を比較すると、拙著の完敗である(笑)。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

*アイキャッチ Photo by Fidel Fernando on Unsplash

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