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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第17回 TICAD7を終えて/「ヘッジ会計」(IFRS9)の実務概要

2019.09.19 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


TICAD7を終えて

 前回第16回のコラムでは、TICAD 7(第7回アフリカ開発会議)開催にあたって、TICADの歴史や性質の変遷、アフリカ市場の多様性について記載した。コラム掲載(2019年8月29日)の翌日に成果文書として採択・発表された「横浜宣言2019」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/yokohama_declaration_ja.pdf)では、

  • アフリカが「特に農業、産業、インフラ、エネルギー、ICT等の」「セクターにおける」「大きな投資機会を国内外の投資家に提供して」おり、「投資家にとって魅力的な投資先」であること
  • TICADが「質の高いインフラへの投資」(英語では“investment in quality infrastructure”)に貢献すること
  • 「インフラが経済の成長と繁栄の重要な原動力であ」り、「エネルギー源、特に太陽光エネルギー、地熱や水力エネルギーを含む再生可能エネルギー」等が、持続可能な経済、社会等に貢献すること

等が記載された。

 更に「横浜宣言2019」の付属文書として発表された「横浜行動計画2019」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/yokohama_action_plan_ja.pdf)では、重点分野における期待される成果の具体例として、

  • 「『質の高いインフラ投資に関するG20原則』に沿って、アフリカ開発銀行と日本の資金協力により質の高いインフラ投資が行われる」こと、
  • 日本の「オフグリッドエネルギーに係る支援」や「地熱発電を含む再生可能エネルギーに係る支援」によって、「アフリカのエネルギーアクセスが向上する」こと、
  • 「JBICのアフリカ貿易投資促進ファシリティ(FAITH)/JOGMECによるリスクマネー供給/NEXIがアフリカ貿易保険機構やイスラム開発銀行等と連携し、輸入費用およびプロジェクト融資の100%をカバーする新スキームを構築」することによって、「民間セクターによる対アフリカ貿易・投資が促進される」こと

等があげられた。

 このように、インフラ投資の市場としてアフリカは無視出来ない存在となっており、日本政府および政府系金融機関による民間セクターに対する後押し、サポートも益々充実して来ているようである。次回のTICAD 8は2022年にアフリカで開催される予定とのことであり、今後3年間の展開が注目される。これまでアフリカ市場に興味のなかったインフラトの読者諸氏におかれても、本コラムを機にアフリカへの興味を持って頂ければ、幸いである。筆者としても、現在CFOとして関わっている西アフリカ某国におけるIPP(独立発電事業)プロジェクトが、本邦企業によるインフラ事業投資の成功例の一つとなることを願ってやまない。

 なお実際にアフリカにおけるインフラプロジェクトに対する投融資を検討・実行するにあたっては、ソブリンリスクおよびそのヘッジのためのストラクチャー(例;プロジェクト所在国による政府保証や、同政府保証を更に補完するものとしてのECA(Export Credit Agency、輸出信用機関、日本であればJBICやNEXI)による保証、Multilateral(多国籍期間、世界銀行グループ等)による保証等)の構築が必要となるケースが多いと思われる。新興国インフラ案件における政府保証の内容や、ECA・Multilateralによる保証の内容・保証履行条件等については、後日改めて考察する。

「ヘッジ会計」(IFRS9)の実務

 本稿の残りでは、第15回のコラムの続きとして、プロジェクトカンパニーにおける「ヘッジ会計」の実務について取り上げる。ヘッジ会計は、従来はIAS(International Accounting Standard、国際会計基準)第39号「金融商品:認識および測定」の規定が適用されていたが、2018年1月1日以降に開始する事業年度からはIFRS(International Financial Reporting Standard、国際財務報告基準)第9号「金融商品」の規定が適用されることになった。(IASとIFRSの概要については第14回コラムご参照)

 第15回コラムに記載の通り、インフラのプロジェクトカンパニーが締結する代表的なヘッジ取引の一つに、金利変動リスク(=ヘッジ対象)をヘッジするための金利スワップ(=ヘッジ手段)がある。変動金利(LIBOR)ベースの借入を、LIBOR受け・固定金利支払いという金利スワップにより固定化するヘッジは、IFRS 9ではキャッシュフロー・ヘッジに分類される。

 キャッシュフロー・ヘッジの実務上のポイントは

  • ヘッジ会計の適用にあたっては、事前の文書化が必要になるという点と
  • 「ヘッジ手段に係る利得または損失は、ヘッジとして有効な部分をその他の包括利益で、それ以外の部分を純損益で認識する」

という点である。

 第15回コラムでは、当期純利益を40、金利スワップの公正価値の純変動(=マイナス評価額の拡大)を20、ヘッジが全て有効と仮定したため、包括利益計算書は以下のようであった。

当期純利益        40
その他包括利益(損失) (20)
包括利益         20

 ところがヘッジに非有効な部分がある場合には、非有効部分は当期純利益で認識する必要がある。仮に非有効部分のマイナス評価額の拡大を5とすると、

当期純利益        35
その他包括利益(損失) (15)
包括利益         20

となる。IFRSにおけるBottom Lineである包括利益には影響ない(20で変化なし)ものの、ヘッジに非有効部分があることにより、当期純利益は40→35に減となってしまう。これは当期純利益を確保したい観点からは、望ましくない事態と言える。(投資家によっては、エクイティIRRよりもPL(純利益)が重視される傾向がある点については、第12回コラムご参照)。

 では「ヘッジの有効性判定」はどのように行うべきなのであろうか?実はこの点については、IAS 39号の方が、定量基準(ヘッジの効果が80%~125%の範囲内)がはっきりしていた。IFRS 9では特定の方法の使用が要求されていない。いずれにしても、リソースが限られたプロジェクトカンパニーにとっては、ヘッジ文書の作成や公正価値変動の算定、有効性テストの実施等の要件を具備した上で、決算書ドラフトを作成せねばならず、Auditorによる監査への対応を含め、ヘッジ会計対応に伴う実務負担は小さくないと言える。公正価値の変動については、ヘッジプロバイダーである金融機関による時価評価(Mark to Market Valuation)で代用するのが簡便であるが、この場合はヘッジプロバイダーの信用リスクをどう評価し、公正価値に反映するのか?という課題が残る。

参考資料)
https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/pdf/2016/03/jp-ifrs-hedge-2015-11.pdf
https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-ifrs-hedge-2018-05.pdf

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

【バックナンバー】
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第16回 TICAD7に寄せて(アフリカにおけるインフラプロジェクト)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第15回 プロジェクトカンパニーの財務諸表作成の実務 その2(純利益と包括利益の違い)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第14回 プロジェクトカンパニーの財務諸表作成の実務 その1(IAS、IFRSおよびIFRIC)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第13回 2019年上期(第1回~第12回)総集編
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第12回 プロジェクトカンパニーの会計上の損益
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第11回 エクイティIRRの限界例(2)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第10回 エクイティIRRの概要と限界例(1)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第9回 インフラプロジェクトの収益性評価
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第8回 操業保険(プロジェクトカンパニーにおける実務上の留意点)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第7回 工事保険(プロジェクトカンパニーにおける実務上の留意点)

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