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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第15回 プロジェクトカンパニーの財務諸表作成の実務 その2(純利益と包括利益の違い)

2019.08.15 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


IFRS基準での利益計算書

 前回第14回のコラムでは、国際会計基準(International Accounting Standard、IAS)、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、IFRS)およびIFRIC解釈指針(IFRS Interpretations Committee)の概要についてごく簡潔に記載した。

 多くの本邦企業においては、いわゆる「PL(ピーエル)」(Profit and Loss Statement)、損益計算書)、なかでも「当期純利益」が重視されているのは第12回のコラムにも記載の通りである。このため本稿以降でも、主にPLに焦点をあてる。

 大学で財務会計の授業を履修し、証券アナリストの講座や邦銀における与信業務(1990年代~2000年代前半)を通じて、筆者が慣れ親しんでいた日本の会計基準におけるPLの主な記載項目は、以下のようなものであった。

 売上高
 売上総利益
 営業利益
 経常利益
 税引前当期純利益
 当期純利益

 この表記は日本の会計基準においてはいまでも有効であり、インフラトの読者諸氏も、IFRS適用未済の企業のIR(投資家向け広報)や会社四季報等でも目にする機会が多いであろう(前回のコラムに記載の通り、2019年7月時点で、上場企業でIFRSを適用済なのは6%程度に過ぎない)。Top Line=売上、Bottom Line=当期純利益と、感覚的にもわかりやすい。

 ところがIFRS基準では当期純利益はBottom Lineではない。経常利益という項目はない一方で、当期純利益の下に、「その他包括利益(Other Comprehensive Income、OCI)」という項目があり、OCI反映後のBottom Lineが包括利益(Total Comprehensive Income、TCI)となる。よって

 当期純利益
 その他包括利益
 包括利益

 という順番になる。当期純利益の計算までを「損益計算書」とし、当期純利益から始まり、その他包括利益(OCI)以降を記載する「包括利益計算書」を別途作成・表示する、いわゆる2表方式にする場合もあるが、ポイントは変わらない。つまり、株主が純利益を重視している場合には、プロジェクトカンパニーがIFRS基準で包括利益計算書を作成し、包括利益を算出する場合であっても、包括利益の前段階の当期純利益が重視される、ということになる。

その他包括利益の例

 「その他包括利益」として計上されるものにはいろいろあるが、インフラプロジェクトのプロジェクトカンパニーにとって関連する可能性が最も高いのは、金利変動リスクヘッジのために締結したキャッシュフロー・ヘッジの公正価値の純変動であろう。

 金利変動リスクをヘッジするツールとして代表的なものに、金利スワップや金利キャップがある。プロジェクトカンパニーは、変動金利ベースで借入を行う場合であっても、変動金利ベースの借入の一定割合(例:借入金額の80%分)は金利スワップ等により、金利変動リスクをヘッジするケースが大半である。

 例えば借入が6カ月LIBOR+マージンという変動金利ベースである場合、6カ月LIBORを受け取り、かわりに固定金利(例4.00%)を支払うという、金利スワップ(交換)を締結することにより、ベース金利を4.00%で固定することが出来る。(金利スワップによる借入金利をファイナンシャル・モデル上でどのように取り扱うか?という例については、拙著「ストラクチャード・ファイナンス Excelによるキャッシュフロー・モデリング」第7章でも取り扱っているので、興味のある方は適宜参照して頂きたい。シニアローンのマージン水準については、コラム(プロファイバンカーの視座)第31回にて言及されている。)

 この金利スワップ取引の公正価値の純変動を、その他包括利益として計上することになる(ヘッジが有効であると仮定)。金利スワップの公正価値をどのように測定するか、キャッシュフロー・ヘッジの有効性をどのように判定するか?という点については、かなり専門的なトピックとなるため、紙幅の都合上本稿では割愛するが、上記の金利スワップを例にすると、2019年のような金利低下局面では、公正価値の純変動はマイナスになる。

 2019年の年初に約2.90%であった6カ月LIBORが、2019年8月に第1週には2.10%を下回る水準まで低下している。金利スワップの数理的なValuationを抜きにした直観でも、同じ想定元本に対して、2.80%を受け取って4.00%を支払う(=1.20%のマイナス)よりも、2.10%を受け取って4.00%を支払う(=1.90%のマイナス)方が、マイナスが大きいことが想像できるであろう。

 仮に当期純利益を40、金利スワップの公正価値の純変動(=マイナス評価額の拡大)を20とすると、包括利益計算書は以下のようになる。

 当期純利益        40
 その他包括利益(損失) (20)
 包括利益         20

 この場合、市場金利の低下による、金利スワップの公正価値の変化(マイナス幅の拡大)を反映後の包括利益は20であるが、株主によっては、同変化を反映前の当期純利益40の方が重要、ということがある。

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)

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