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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第12回 プロジェクトカンパニーの会計上の損益

2019.07.04 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


やっぱりPLが好き?

 第10回および第11回のコラムでは、プロジェクトIRRとエクイティIRRの違い、エクイティIRRの試算例や限界、それらを踏まえた上での実務上の留意点等について考察した。

 エクイティIRRの試算例としてとり上げたのは、「グリーンフィールドのインフラプロジェクト案件に、ファイナンスクローズ前から参画。事業期間終了までExit(=売却)せずに投資を継続した場合」の事例であった。仮に事業期間終了を待たずに、(建設終了後、商業運転開始後に)途中で持ち分を売却する場合には、売り手のエクイティIRRは売却価格(正確には売却価格から税金や諸費用等を控除後のネットの手取り額)次第となる。

 ではブラウンフィールド案件における、買い手のエクイティIRRはどうなるのであろうか?これは買収価格や資金調達スキーム、諸費用等を勘案した買収時のキャッシュアウトフローと、買収後のキャッシュインフロー次第となる。なおグリーンフィールド案件とブラウンフィールド案件の違い、ファイナンスクローズの概要については第2回のコラムを参照されたい。

 このようにエクイティIRRは、グリーンフィールド・ブラウンフィールドの別や、プロジェクトのサイズ、機能通貨等を問わず、インフラプロジェクトに参画する際の収益性の指標として幅広く利用される。筆者の経験では、一般にファンド投資家はエクイティIRRを重視する傾向が強い。一方で、ファンドではない本邦の事業会社がインフラプロジェクトに参画する場合には、エクイティIRRや回収期間(Pay Back Period)に加え、「なんだかんだ言ってやはりPLも大事」というケースも多いと思われる。

 PLというのは損益(Profit and Loss)の略であり、一言で「PL」という場合、損益計算書(Profit and Loss Statement)の税引後純利益の額を指す場合もある(使用例:「この案件のPLいくら?」「初年度のPLが〇〇億円です」)。

 なぜファンド以外の本邦の株主にとって、PL(特に純利益)が重視されるケースが多いかというと、それは全社やセグメント(部門等)の業績を示すKPI(Key Performance Indicator)として、純利益(額)が利用されるケースが多いためである。ソフトバンクグループ(銘柄コード9984)の2019年度事業戦略説明資料では、ソフトバンクビジョンファンドのエクイティIRRが記載されていたが、これは現時点では本邦上場企業のIR(投資家向け広報)としては、例外的なケースと言えるだろう。

会計基準の決定と監査法人の選任

 PLには株主レベルのPLとプロジェクトカンパニーのPLがある。手順としては1)プロジェクトカンパニーのPLを含む決算書作成→2)株主のPLを含む決算書に反映(連結)となる。本稿では主にプロジェクトカンパニーの決算書作成に関する実務について考察する。

 プロジェクトカンパニーが決算書を作成するにあたっては、まず会計基準を決定する必要がある。株主がIFRS(International Financial Reporting Standards、国際会計基準)を採用している場合には、プロジェクト所在国の会社法が許すのであれば、プロジェクトカンパニーもIFRSを採用するのが望ましい。

 会計基準と並んで重要なのが監査法人(Auditor)の選定である。いわゆるBig Four(4大監査法人/会計事務所)の現地拠点のいずれかをAuditorとして起用出来るのであれば、株主やレンダーの了解も得やすいだろう。逆にBig Fourの系列以外のFirmをAuditorとして起用する場合には、Firmの内容や実績等について、株主やレンダー宛の追加説明が必要になる可能性が高くなると言える。

 参考までにBig Four とはKPMG、Ernst & Young (EY)、Deloitteおよび PricewaterhouseCoopers (PwC)を指し、日本では其々あずさ、EY新日本、トーマツ、PwCあらた、が対応する監査法人になる。なお筆者が若手であった頃は、Big Six~Big Fiveの時代であった。1998年にPrice WaterhouseとCoopers & Lybrandが合併してPricewaterhouseCoopers (PwC)になり、Arthur AndersenはEnron事件を機に2002年に消滅した。

 会計基準と監査法人が決まれば、次は試算表及び決算書の作成となる。次回のコラムでは、プロジェクトカンパニーの試算表・決算書作成・監査対応にあたっての実務上の留意点について考察してみたい。

<追伸>

 筆者の場合、大学で会計の基礎を学ぶまでは、PLといえば、高校野球の名門校であった大阪の「PL学園高校」を意味した。数多くのプロ野球選手を輩出したPL学園高校の硬式野球部は、2016年以降休部中とのことである。

 またBig Fourと言えば、通常は4大会計事務所グループを指すが、1980年代から活躍しているスラッシュメタルバンドの大御所バンド4つをBig Fourということがある。筆者の個人的な好みは、Metallica>>Megadeth>>Antrax = Slayerである。

参考資料)
ソフトバンクグループIR情報:https://group.softbank/corp/irinfo/presentations/

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

【バックナンバー】
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第11回 インフラプロジェクトの収益性(3)(エクイティIRRの限界と実務上の留意点)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第10回 インフラプロジェクトの収益性(2)(エクイティIRRの概要と限界)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第9回 インフラプロジェクトの収益性(1)
【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第8回 操業保険(プロジェクトカンパニーにおける実務上の留意点)
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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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