【コラム】(プロファイバンカーの視座)第32回 PF組成しやすい事業(18)「資源型」と「電力型」の比較

2019.07.25 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


プロジェクトファイナンスにおける「資源型」事業と「電力型」事業との比較は、それぞれの事業の特徴を理解するうえで役に立つ。これは実務上有益な視点を与えてくれる。さて、『「資源型」事業と「電力型」事業とでは、どちらの方が問題は発生しやすいのでしょうか』という質問も良く受ける質問である。こういう質問をされる方は営業部門よりも審査、企画、管理の部門で仕事をされている方や経営職の方が多いようである。

「資源型」事業と「電力型」事業とでは、どちらの方が問題は多く発生しているのか。そして、どちらの方がプロジェクトファイナンスの融資が不良債権となる確率が高いのか。非常に興味深い問いである。しかし、筆者の知る限り、プロジェクトファイナンスに関するこれらの調査・分析はほとんど行われていないようである。アナリストが手を抜いているわけではない。関連するデータが公表されていないので、調査・分析をすることができないからだと推測される。従って、残念ながらこの問題をデータに基づいて議論することができない。仕方がないので、筆者の経験や見聞からこの問題を考えてみたい。

「資源型事業と電力型事業とでは、どちらの方が問題は発生しやすいのでしょうか」と質問された方々に、「どちらだと思われますか」と聞き返すと、多くの方は「資源型事業でしょうか」と答える。圧倒的にこういう回答をされる方が多い。ご自身ではおそらく「資源型」事業ではないか」と見当を付けていらっしゃるものの、先述の通りデータがほとんど公表されていないので確信が持てないため質問されるようである。

筆者の経験や見聞では、「資源型」事業は一部の方々が想像しているほど問題が発生する事業ではない。「資源型」事業における操業・出荷を開始するまでの難しさは「電力型」事業を上回るのは事実である。しかし、プロジェクトファイナンスレンダーは「資源型」事業で通常完工するまでの間、スポンサーの債務保証をもらう。従って、操業・出荷までに発生する諸問題(完工遅延やコストオーバーランなど)はレンダーにはほとんど影響を与えない。操業・出荷が問題なく開始したとしても、「資源型」事業は日々生産物価格(例えば石油価格)の変動に影響を受ける。この点に憂慮を抱く人も少なくない。しかし、この点も生産物価格の見通しを過度に甘く想定していない限り、通常コントロールが可能なはずである。生産物価格が下がっても利益が出せる、つまり生産コストが十分に低い水準にあり価格競争力がある、という点が「資源型」事業のポイントである。これを決定付けるのが、これまでも触れた「埋蔵量の優位性」である。

さらに「資源型」事業の多くは生産物を輸出している点にも注目しておきたい。「資源型」事業の多くは輸出事業である。輸出事業であるということは生産物の購入者が海外に存在するということ。さらに生産物の購入者は1社ではなく複数存在しているのが普通である。この点はオフテイカー(生産物の購入者。例えば電力の購入者)が1社であることが多い「電力型」事業と対比される。生産物の購入者が複数存在するというのは「資源型」事業の強みであり特長である。

「電力型」事業、例えば発電事業では長期電力売買契約が存在する点が強みではある。しかしながら、その契約の相手方であるオフテイカー(電力の購入者)は例えば新興国の場合、国営電力会社であろう。将来同国の経済状況が一変するようなことが起これば、国営電力会社といえども破綻に瀕することもあるかもしれない。長期電力売買契約のある発電事業において、オフテイカーが破綻したら一巻の終わりである。「電力型」事業において長期オフテイク契約の存在は強みではあるものの、その長期オフテイク契約に多くを依存しているという点はいわば諸刃の剣である。オフテイカーという観点では「電力型」事業は「すべての卵を一つの籠に入れている」とも言える。これに対して「資源型」事業では輸出が基本なので、事業所在国の経済状況に影響されることは少ない。むしろ、事業所在国の経済状況が芳しくないときこそ、輸出で外貨を稼げる「資源型」事業は事業所在国から期待が高まる。さらに、生産物の購入者は常時複数存在しており、仮に一部の購入者に問題を来たしたとしても、世界の市場で代わりの購入者を探すのはさほど困難ではない。

「電力型」事業は長期のオフテイク契約があるために事業収入が安定している、とこれまで評価してきた。この点に間違いはないが、視点を変えて観ると、長期オフテイク契約なしには事業が存続し得ないとも言い換えることができる。長期オフテイク契約に一旦緩急あると事業存続が危ぶまれるという点は、「電力型」事業の究極の弱みでもある。世界の市場を相手にできる、輸出主体の「資源型」事業には、こういう弱みは存在しないのである。(この稿続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Robert Bock on Unsplash 

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