【コラム】(プロファイバンカーの視座)第30回 PF組成しやすい事業(16)「資源型」と「電力型」の比較

2019.06.27 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


前回「資源型」事業と「電力型」事業との違いについて、DSCR水準の違いを採り上げた。ベースケースのDSCR水準が両事業モデルの間では全然違うということを知ると、最初は誰でも驚く。しかし、その理由を知ると得心がゆく。その理由は両事業モデルの本質的な違いに由来しているからである。さらに、プロジェクトファイナンス案件を「資源型」事業と「電力型」事業とに分類するのは、なにも学術的な興味からではなく、極めて実務的な必要からであるという点も強調しておきたい。

さて、「資源型」事業と「電力型」事業との分類を実務的な必要から行うのは、ベースケースのDSCR水準の違いという観点だけではない。本コラムの読者の中には既にプロジェクトファイナンスの実務に携わっておられる方も少なくないと思う。そういう方はプロジェクトファイナンスの融資契約書でレンダーが借主に借入金の金利の固定化を求めている事例を見たことがあるのではないだろうか。

そこで「資源型」事業と「電力型」事業との関連で借入金の金利の固定化について見てゆくことにしたい。海外のプロジェクトファイナンス案件では借入金の通貨は米国ドルが最も多く使用されている。やはり、米国ドルは基軸通貨である。国際金融の世界ではダントツの地位にある。この米国ドルでの借入金は通常LIBOR(London Interbank Offered Rate、「ライボー」と呼称する)という基準金利を基にした変動金利で行われている。LIBORにマージンを加算したもの(「LIBOR+マージン」)が実際に借主が負担する借入金の金利水準になる。基準金利には3か月物LIBORや6か月物LIBORがよく使われる。例えば、3か月物LIBORを基準金利とすれば、その3か月の間だけは借入金の金利水準は変わらない。しかし、次の3か月間は再び新たなLIBORを参照しに行くので、次の3か月間は基準金利が変わり借入金の金利水準も変わる。これを3か月毎に繰り返す。3か月毎に借入金の金利水準は変わってゆく。このように借入金の金利水準は変わってゆくので、借入金の金利は変動するという。マージンは変わらないので、基準金利の変動がその原因である。

基準金利の水準が例えば中長期的に上昇してゆくとすると、事業から得られるキャッシュフローはその分徐々に圧迫される。借入金の支払利息の負担が増えるからである。この金利負担の増加は借主にとってもレンダーにとっても望ましいことではない。特にレンダーは返済の確実性を脅かすものをできる限り排除したいと思う。そこで、レンダーは借主に金利の固定化を求めることがある。

金利の固定化というのはどうやって行うのか。これは通常金利スワップという方法で行う。金利スワップというのは変動金利と固定金利を交換するという意味である。上記で説明したLIBORベースの変動金利を固定金利にすることを意味する。米国ドルであれば、期間10年にも及ぶ長期の金利スワップも容易である。つまり、向こう10年間に亘って金利を固定化することができる。そこでレンダーは期間10年程度の金利スワップで借主に金利の固定化を求めることが少なくない。

さて、ここで留意したいのが「どんなプロジェクトファイナンス案件でもレンダーは借主に金利の固定化を求めるのか」という点である。金利の固定化が求められる案件と求められない案件があるとしたら、それはそれぞれどういう案件なのか。実はこの両者の区別に匹敵するのも「資源型」事業と「電力型」事業の分類である。つまり、「資源型」事業では金利の固定化は求められないが、「電力型」事業では金利の固定化が求められる。

「資源型」事業では金利の固定化は求められないが、「電力型」事業では金利の固定化が求められる、というのはもちろん絶対的なものではない。「資源型」事業でも金利の固定化が求められる例が存在するし、「電力型」事業で金利の固定化が求められない例も存在する。しかし、「資源型」事業では金利の固定化はほとんど求められないが、「電力型」事業では金利の固定化がほとんど求められる、と言えばほとんど間違いない。その理由は、DSCR水準の違いの理由と同様である。つまり、「電力型」事業は事業収入の安定が前提であるので、金利上昇のリスクですら回避したい。これに対して「資源型」事業は元来事業収入の上下を想定しているので、金利上昇のリスクも吸収できる。こういう考え方が背景にある。金利固定化の要否と「資源型」事業・「電力型」事業の分類とがほぼ合致しているという点は、実務上の知見として認識しておくと便宜である。(この稿続く)

(参考)基準金利LIBORは2021年末に廃止される予定である。LIBORに代わる米国ドルの基準金利はニューヨーク連銀が主導するSOFR(Secured Overnight Financing Rate)が有力視されている。LIBORには銀行の信用リスクを反映した調達コストが含まれているが、SOFRには含まれていない。LIBORがSOFRに取って代わられるとしても、銀行の調達コストをどのように反映するのかは未定である。LIBORに代わる基準金利をめぐる問題は、太田康夫著『誰も知らない金融危機 LIBOR消滅』(日本経済新聞出版社 2019年3月)に詳しい。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Mike Stezycki on Unsplash

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