【コラム】(財務モデリングの最先端)第1回 財務モデルの目的

2019.10.25 連載コラム

ナレッジパートナー:川井 文哉


財務モデル Financial Model とは

最近、様々な場面において財務モデル (Financial Model) が活用されている。財務モデルとは、事業の構造などを四則演算を通して分析可能にした計算ファイルのことだ。このような言い方をするととても難しいことのように聞こえるかもしれないが、要は Excel を用いて財務数値を計算していれば、それは財務モデルと言ってほぼ差支えない。例えば売上は単価×数量として Excel 上で計算することができるし、費用は売上×原価率として Excel 上で計算することができる。このように財務モデルとは、実は多くの人が日々の色々な場面で既に使っている Excel ファイルのことなのだ。

財務モデルは様々な状況で用いられる。一般的なものとしては、経営計画を作成する時や、企業や事業の価値を計算する時、コンサルタントが事業を定量的に分析する時や、事業の買収や融資の実行といった大きな経営判断を行う時など。財務モデルは最先端の現場でも未だに Excel が現役で用いられており、財務モデルのプロはほぼ全員 Excel のプロと言っても過言ではない。一般的に、財務モデルに頻繁に触れる投資銀行では、Excel のショートカットを徹底的に訓練するために、マウスが最初から PC から引っこ抜かれているというのはよく聞く話だ。

事業計画と財務モデルの違い

では、皆さんが普段計算している Excel ファイルが全て財務モデルかと言うと、実はそうではない。将来の事業計画をExcel 上で作成したとしても、それだけでは財務モデルだという事はできない。Excel 上での計算が財務モデルであるための条件は、計算したい項目が「シミュレーション可能」だという点だ。例えば1年後の事業の利益予想が 10 億円であったとしよう。これがシミュレーション可能であるという意味はどういう意味だろうか?こういう際には、下記のような質問を投げかけてみれば良い。「この利益10億円の根拠となる売上の製品単価はいくらだろうか?」「製品単価が1つあたり3万円だとして、もし 10% 高い価格を設定すれば、利益はいくらになるだろうか?」「もし原価率が足元の水準より4%高くなってしまったら、利益はどの程度減ってしまうだろうか?」

もし、上記のような質問に答えることができなければ、それは財務モデルと呼ぶことはできない。つまり、シミュレーション可能という意味は、突き詰めて考えると「前提条件を変化させた際に、求めたい値を連動して正しく変化させることができる」という意味だ。売上は製品単価と数量と連動していて、原価も売上と連動している。利益は売上や原価、税金等と連動しており、1つの前提条件が変化することによって、これら全ての値が連動して自動的に計算される必要がある。上記の例から、単なる事業計画と財務モデルの違いは、計算結果を動的にシミュレーションできるかどうか、と言うことができるだろう。

なぜシミュレーションが必要なのか

さて、財務モデルとは数値をシミュレーションすべきものだと述べた。そもそも、なぜ財務モデルを使ってシミュレーションをする必要があるのだろうか。先ほどの財務モデルが使われるシチュエーションをもう一度考えてみよう。経営計画を作成する時や、企業や事業の価値を計算する時、コンサルタントが事業を定量的に分析する時や、事業の買収や融資の実行といった大きな経営判断を行う時など、である。これらに共有する特徴は何だろうか?答えは、これら全て「意思決定の現場」だという点だ。経営計画の現場で財務モデルを作成する際には、「現状の事業戦略を実行すべきかどうか」判断するために作るものだし、事業の買収や融資を実行する際には、「事業を買収すべきか否か」「融資を実行すべきかどうか」など、必ず意思決定したい項目がある。意思決定を行うために、シミュレーションが必要なのだ。

「現状の製品単価で、目標利益を達成できるだろうか?」「仮に競争が激化したとしても、この事業を今すぐ買収すべきだろうか?」「円高で売上が悪化しても、融資後の返済に耐えられるだろうか?」。重要な意思決定を行うためには、様々なケースを想定する必要があり、それらを定量的にシミュレーションすることで、その答えを得ようとするのが財務モデルの最終的な目的だ。逆に、計算そのものが目的なら、単純な集計作業であって、財務モデル、つまりシミュレーション可能な計算を構築する意味はない。例えば、ある会社を50億円で買収することが 100% 社内で決まっているのに、新たにその会社の価値をシミュレーションする財務モデルに、一体どんな意味があるだろうか。

財務モデルのもう1つの目的

それでは、財務モデルの目的とは「意思決定するため」だけのものだろうか?例えば、財務モデルなどなくとも、社長が「やる/やらない」などと意思を決めたら、財務モデルは必要ないものなのだろうか?筆者の意見はそうではない。財務モデルのもう1つ重要な目的は、コミュニケーションだ。上記で述べたような意思決定には、大きな説明責任が伴う。「なぜ今事業を買収すべきなのか」「なぜ人員を100人削減するべきなのか」。このような質問に、経営者や投資家は、しっかりと定量的に根拠のある答えを持っておく必要があるのだ。最終的には財務モデルを通して、関係者全員が、事業の構造や、将来計画の前提条件などを包括的に確認することができる。財務モデルとは、意思決定ツールであると共に、コミュニケーションを行うためのツールでもあるのだ。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
川井 文哉

*アイキャッチ Photo by Sean Pollock on Unsplash

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
東京モデリングアソシエイツ
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