【コラム】(財務モデリングの最先端)第4回 フォーマットはなぜ重要か(1)

2019.12.06 連載コラム

ナレッジパートナー:川井 文哉


フォーマットの重要性について

第3回目のコラムにおいて、財務モデルを効率的に組んでいくために必要とされる4つの原理原則である、Flexible(柔軟性)、Appropriate(必要十分性)、Structured(一貫性)、Transparent(透明性)について説明した。今回は、Structured(一貫性)の一要素であるフォーマットの重要性について解説をする。財務モデルにおけるフォーマットは、非常に重要だと様々な所で説かれている。投資銀行では財務モデル内のフォーマットを統一するよう徹底的なトレーニングを行っているし、筆者自身もコンサルティングファーム内において、財務モデル内のフォーマットを完璧に統一するよう徹底した指示を繰り返しメンバーに説いてきた。しかし、一度立ち止まって考えてみると、なぜフォーマットというものはそこまで重要視されるのだろうか?たかがセルの色やデザインにそこまで時間と労力をかけることは合理的なのか、と疑問に感じる人もいることだろう。そこで今回は「フォーマットは重要である」ということだけではなく、「なぜ重要なのか」という部分に焦点を当てて、2回のコラムに分けて解説を行う。

フォーマットとは

そもそも財務モデルにおけるフォーマットとは何のことだろうか。筆者は財務モデルにおけるフォーマットルールは、①データの表記位置、および②データの書式設定、の2種類に分解できると考える。つまり、「正しいフォーマット」が担保されるためには、「指定された場所」に「ルールに従った書式で」データや計算が記載されている必要があるという考え方だ。例を挙げると、筆者のフォーマットルールでは、データラベルは必ずD列に、游ゴシック9pt で入力しなければならない、と定められている。この場合、「D列」というのが、①データの表記位置にあたり、「游ゴシック9pt」というのが、②データの書式設定にあたる。逆の言い方をすれば、D列に 游ゴシック9pt で入力されているデータがあるとすれば、それはデータラベルだということが分かる。このように、フォーマットである表記位置と書式設定を予め定義しておくことで、セルの場所と色使い(書式)を見ればデータの意味がすぐ分かるのだ。

財務モデルにおけるフォーマットを、日常生活に置き換えた例として信号機を考えてみよう。ご存知の通り、信号機の色は青が「進行可能」、黄色と赤が「停止」となる。黄色は基本的には「停止」の合図だが、条件として「停止位置が近く、安全に停止することができない場合を除く」とあるので、交差点内など安全に停止できない場合は進行可能となる。細かい定義はさておき、車両は、「進め」「止まれ」等の具体的な指示がなくとも、信号機の色に従ってこれらの正しい操作を行うことができる。そういった意味で信号機の色は、一種のフォーマットと呼ぶことができるだろう。

ルールが統一されていることが重要

信号機の色は、「青」「黄色」「赤」と決まっているが、厳密にこの3色でなければダメだろうか?もちろんそんなことはない。「白」「緑」「オレンジ」だったとしても、慣れれば運用できないことはないだろう。そういった意味で、色そのもののルール、つまりフォーマットの形式そのものはあまり重要でないように思える。財務モデルにおいても、特定のセルの色が黄色でなければダメ、青色でなければダメといったものではなさそうだ。

ところで、信号機の色は「青」「黄色」「赤」と決まっているが、これはそれぞれの意味を含めて世界共通だそうだ。これらが世界共通であるべき理由は簡単で、もしオーストラリアに旅行に行って道路を運転した際に、仮に青信号と赤信号の意味が逆なら、大事故に発展し兼ねないからだ。国ごとに異なる信号機の色、すなわち異なるフォーマットを運用しようとすると、誤解や混乱を招き様々な事故を引き起こすリスクが上昇してしまう。重要なことは、信号機の色、つまりフォーマットは何でも良いのだが、皆が同じ色を同じルールとして認識している必要がある。財務モデルにおいても、セルの色自体は何でも良いのだが、皆が同じ色を見て同じルールとして認識をしていることが重要だ。

ミスを事前に防ぐ役割

信号機の色が、国ごとに別々のルールで運用されていると大事故に発展しかねないという点について述べた。それでは、財務モデルごとに別々のフォーマットが用いられている場合はどのような事故が起こり得るだろうか?筆者の経験上、最も多いのが単位の間違いだ。筆者のフォーマットルールでは、K列に必ず正しい単位を1つ1つ丁寧に入力するようなルールとなっているが、一般的な財務モデルにおいては単位の記載漏れが非常に多い。しかしながら複雑な案件になればなるほど、複数の為替や単位が入り乱れることになり、単位の変換が頻繁に行われることとなる。エネルギーの案件にもなれば、体積の変換係数やエネルギーの変換係数も出現するため、更に注意が必要だ。このような状況で単位の記載などが漏れていると、ほんの一行、1,000単位を1単位と間違えたりするだけで、売上や費用の項目が1,000倍になったり1,000分の1になったりする。単位はミスに対してのインパクトが極めて大きいのだ。ただし業界の経験などなくとも、徹底的にフォーマットに対するトレーニングを積み、単位を1つ1つ丁寧に記載をしていけば防ぐことが出来るミスでもある。

フォーマットを徹底することで、財務モデル構築の際の計算のミスを事前に防ぐことができる、というのがフォーマットが重要である理由の1つだ。もう1つ同じぐらい重要な機能があるので、そちらは次回のコラムで説明を行うことにする。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
川井 文哉

*アイキャッチ Photo by Andrew Ridley on Unsplash

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