【コラム】（プロファイバンカーの視座）第146回プロジェクトファイナンス超入門（10）

2024.04.25 連載コラム

ナレッジパートナー：井上義明

【プロジェクトファイナンスってなに？】

前々回から民間の国際組織Equator Principlesによるプロジェクトファイナンスの説明・定義を見ています。前回は「プロジェクトファイナンスはファイナンス手法（a method of financing）である」という、1点目に注目しました。この点はよくかみ砕いてみると、まず「プロジェクトファイナンスは融資である」ということを意味しています。さらに全体の文脈から、「プロジェクトファイナンスは事業向け融資である」ということも意味していると解釈できます。この1点目、みなさん、よろしいでしょうか。

さて、今回は国際組織Equator Principlesのプロジェクトファイナンスの説明・定義のうち、もう一つの点をみてゆくことにしたいと思います。もう一つの点というのは2点目で、「レンダーは主としてプロジェクト（事業）から生まれる収入を返済の原資としている」という点です。これは前回既に少し触れましたが、レンダーの視点で説明・定義をしています。レンダーの視点で、プロジェクトファイナンスの「返済原資」について述べています。「返済原資」という言葉はレンダーの人たちがよく使う言葉ですね。その意味するところは、分かりやすい表現で言えば、「借入金はどうやって返すのか」「そのお金はどこから来るのか」ということです。融資の仕事を主としているレンダーにとっては、非常に重要なポイントです。融資の仕事を主としているレンダーは、通常「返済原資が良く分からないのなら、その融資は行うべきではない」と考えています。「まず返済原資を明らかにする」、次に「その返済原資の確実性を確かめる」、そして「もし返済原資の確実性に疑問が生じるようであれば、その融資は行うべきではない」と、融資に熟達したレンダーは考えています。

Equator Principlesの説明・定義に戻りましょう。「レンダーは主としてプロジェクト（事業）から生まれる収入を返済の原資としている」と言っていますので、プロジェクトファイナンスの「返済原資」は「プロジェクト（事業）から生まれる収入」だということです。これは当たり前のことを言っているように聞こえます。しかし、意味していることはなかなか深いんです（笑）。なぜなら、ここでいう「プロジェクト（事業）」というのは、これから立ち上げる、新規のプロジェクト（事業）ですから。借主となる法人体は、このプロジェクト（事業）を行うために新規に設立された法人体で、通常特別目的会社（SPC – Special Purpose Company）です。

ちょっとプロジェクトファイナンスのことを一旦忘れて頂いて、新規の事業に対する融資というものを普通に考えてみたいと思います。新規の事業を行うために会社を設立して、その会社が借主になるということになると、一般的に考えたときに、レンダーは通常どうやって融資を行うのでしょうか。私は銀行員駆け出しの頃、都内の中小企業向けの融資に携わっていました。そのときの経験に照らして言えば、取引先企業が子会社を設立して新規の事業を始めようとするケースが思い浮かびます。そして、取引先企業の社長や財務担当役員が「この子会社に融資をしてもらえませんか」と相談してきたようなケースが、まさにこれに該当しますね。もちろん、子会社が計画している新規事業の内容はよくヒアリングします。事業計画も精査します。そして、事業内容も事業計画もなかなか説得力があり、商機もありそうだと判断したとします。従って、基本的には融資を実行する方針が決まったとします。さて、そこで、レンダーはどんな条件で融資を実行するのでしょうか。

（次回に続く）

プロジェクトファイナンス研究所
代表　井上義明

*アイキャッチ　UnsplashのRyan Leが撮影した写真

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