【コラム】(プロファイバンカーの視座)第144回 プロジェクトファイナンス超入門(8)

2024.03.28 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【プロジェクトファイナンスってなに?】

前回は「プロジェクトファイナンスとはなにか」ということをめぐって、国際協力銀行のプロジェクトファイナンスの説明・定義を見てきました。この説明・定義でも、プロジェクトファイナンスは「事業向け融資」であり、「ノンリコース・ローン」でもある、ということが読み取れることを確認しました。

さて、国際協力銀行の説明・定義は日本語で記載されているものです。英語で記載されているプロジェクトファイナンスの説明・定義はどうなっているのでしょうか。プロジェクトファイナンスというファイナンス手法は、日本語で説明しても英語で説明しても、その実態・本質に変わりはないはずです。ということで、今回は「プロジェクトファイナンスとはなにか」という問いかけを、英語で回答したらどうなるのか、ということを見てゆきたいと思います。

英語でプロジェクトファイナンスを説明・定義しているものを採り上げるには、国際的な組織が使用しているものを見てゆくのが適当かと思います。そこでEquator Principles(注1)という国際組織のものを見てゆくことに致します。Equator Principlesという国際組織は2003年にプロジェクトファイナンス業務を行う複数の大手民間金融機関によって設立されました。現在では128の金融機関(注2)が加盟しています。日本の大手銀行も加盟しています。このEquator Principlesではプロジェクトファイナンス(注3)を供与する金融機関が遵守すべき環境基準を明定し、加盟金融機関にその遵守を求めています。この組織は民間によって運営されていますが、設立以来20年余の功績には目を見張るものがあります。特に私は、民間でもこれだけの国際組織を運営できるのだ、という点に括目してきました。

Equator Principles が設立されるまでの経緯についても少し触れておきます。1990年代まではプロジェクトファイナンスを供与した事業(例えば銅鉱山開発事業)が環境に悪影響を与えるような事象が散見されていました。環境団体に猛烈に抗議を受けた米国大手金融機関もありました。こういう教訓から、プロジェクトファイナンスの健全な発展のために、民間の主導でEquator Principlesが設立されたわけです。

さて、Equator Principlesによるプロジェクトファイナンスの説明・定義を見てゆくことにしましょう。”EP4 JULY 2020″(注4)という文書の中にプロジェクトファイナンスについて、次のような説明・定義が見られます。

Project Finance is a method of financing in which the lender looks primarily to the revenues generated by a Project, both as the source of repayment and as security for the exposure.

この英語の日本語訳をお示ししておきます。
「プロジェクトファイナンスとは、主としてプロジェクト(事業)から生まれる収入を、レンダーが返済の原資とし、さらに担保にもしているファイナンス手法である」(筆者訳)

この英語の文章の要点を書きだしてみます。おそらく次の3点に要約することができると思います。

  1. プロジェクトファイナンスはファイナンス手法(a method of financing)である。
  2. レンダーは主としてプロジェクト(事業)から生まれる収入を返済の原資としている。
  3. レンダーは主としてプロジェクト(事業)から生まれる収入を担保としている。

(次回に続く)

注1)
Equator PrinciplesのHPは次の通りです。 https://equator-principles.com/
Equator Principlesは日本語で「赤道原則」や「エクエイター原則」と呼ぶことがあります。日本語で「赤道原則」や「エクエイター原則」と呼ぶ際には通常Equator Principlesが定めているルールや原則のことを指していると思います。Equator Principlesという言葉はそういったルールや原則のことではありますが、同時に組織の名前でもあります。そういう事情がありますので、本文では英語のままEquator Principlesと記載しました。本文では専ら組織名として用いています。

注2)
Equator Principlesに加盟している金融機関の数は本原稿執筆時点(2024年3月)のものです。

注3)
Equator Principlesが規制の対象とするファイナンス業務は当初プロジェクトファイナンスだけでしたが、現在ではプロジェクトファイナンスのフィナンシャルアドバイザー業務やプロジェクトファイナンスのブリッジローン(つなぎ融資)業務なども対象に含めるなど、対象範囲を広げています。

注4)
EP4という名称は「第4版」を意味しています。つまり、2020年7月作成のEP4は、初版から3回目の改訂だということです。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashMicaela Parenteが撮影した写真

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