【コラム】(プロファイバンカーの視座)第139回 プロジェクトファイナンス超入門(3)

2024.01.11 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【プロジェクトファイナンスってなに?】

前回は企業向け融資とプロジェクトファイナンス(事業向け融資)の違いをレンダーの融資審査の観点からお話をしました。「両者の間ではレンダーの融資審査の方法がこんなにも違うのか」と少し驚かれた方もおられるのではないかと推察致します。レンダーの融資審査のことを業界では「デュー・ディリジェンス(Due Diligence)」と呼ぶことがあります。さらに短く「デュー・ディリ」とも言います。従って、業界関係者同士の会話では「今度の案件はデュー・ディリに時間がかかっているよ」なんてセリフを交わしています。

ちなみに私はプロジェクトファイナンスの仕事に出会うまで、銀行の支店(2支店)で約5年半の間専ら「企業向け融資」の営業職の仕事に従事しておりました。担当先は支店近隣の中小企業です。この期間、財務分析、不動産評価、経営陣の評価などを日常的に行っていました。毎月数件の貸出稟議書を起案し、貸出稟議書の承認を得ると融資契約書(金銭消費貸借契約書)を締結するなど一連の融資業務に毎日没頭しておりました。1980年代後半のことです。つまり、私はプロジェクトファイナンスの仕事に出会うまで、融資と言えば「企業向け融資」のことだと思っていました。ですから、プロジェクトファイナンスの仕事に出会って、プロジェクトファイナンスの融資審査の方法を学んでゆく過程で、その融資審査の方法がそれまで自分が習得してきた「企業向け融資」の審査方法と全く異なるということが段々分かってくると、心底驚愕したものです。と同時に、なにか未知の新しいものに出会った喜びも感じました。

さて、今回はプロジェクトファイナンスが事業向け融資であることに加えて、ノンリコース・ローン(Non-recourse loan)でもあるという点を見てゆきたいと思います。プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローンです。

【プロジェクトファイナンスとは】

「プロジェクトファイナンスはノンリコース・ローン」といま書きましたが、そもそもノンリコース・ローンとはどういう意味でしょうか。「ノンリコース・ローン」の反対は「リコース・ローン」です。説明の手順としては、まず「リコース・ローン」の説明からしてゆきたいと思います。融資の世界では「リコース・ローン」の方が圧倒的に多いですから。

例えば、企業A社が新たな事業を始めるに当たって事業会社B社を設立したとします。B社はA社の100%子会社です。B社は事業を実施してゆくために、銀行などの金融機関(レンダー)から借り入れを計画したとします。このときの借主はもちろんB社です。さて、B社は容易に金融機関から借り入れを行うことができるのでしょうか。B社は設立されたばかりの会社ですから、通常では金融機関が融資の提供を躊躇するでしょうね。そこでこういうケースでは、金融機関はB社向けの融資について、親会社A社から債務保証を徴求します。A社から見ると、B社の借入について金融機関に債務保証を差し入れるということです。こうすることによって、設立されたばかりのB社でも金融機関からの借り入れを実現することができます。しかし、B社の借入はB社自身の信用力によって実現したものではなく、A社の信用力によって実現したものです(注)。万が一B社が借入金の返済をすることができなくなれば、債務保証を行ったA社(従って、A社はB社の保証人)が代わって返済しなければなりません。こういうケースを「事業会社B社への融資はA社にリコースする」と言います。また「事業会社B社への融資はA社へのリコース・ローンだ」とも言います。従って、ここでいう「リコース」という言葉の意味は「レンダーが返済を請求できる(返済を請求できる法的権利を持っている)」という程度の意味です。

この「リコース」という言葉の意味、重要ですのでぜひ押さえておいてください。このあとの「ノンリコース・ローン」の説明のときに、キーワードとなりますので。さて、上記の事例を図示してみますと、次のようになります。

【リコース・ローンの例】

なお、上記の例は「子会社の借入について親会社が債務保証をしている」という事例です。これは日本の親会社が子会社に対して頻繁に行っている事例です。子会社が海外に設立した会社だったりすることもよくあります。 

(次回「ノンリコース・ローン」のお話をしてゆきます)

注)
「信用力」という言葉は、ビジネス特にファイナンスの世界で使われたときには特有の意味を持ちますので、ご説明します。個人間でいうところの「信用できる」「信用できない」という意味とはだいぶ異なります。個人間の話なら、おそらく「嘘はつかない」「正直だ」という程度の意味だろうと思います。しかし、ビジネス特にファイナンスの文脈で企業の「信用力」と言ったら、それはほぼ企業の「財務能力」の話です。つまり、「この企業は信用力がある」と言ったら、「この企業は財務能力がある」という意味とほぼ同義です。もう少し具体的には、この企業は「支払いはしっかり行う」「お金のことは心配ない」「借入金はちゃんと返す」といった意味です。ちなみに、この企業の「信用力」を格付機関が格付けしたものが「信用格付」(credit rating)です。

    プロジェクトファイナンス研究所
    代表 井上義明

    *アイキャッチ UnsplashHarley-Davidsonが撮影した写真

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