【コラム】(プロファイバンカーの視座)第15回 PF組成しやすい事業(1)「資源型」

2018.11.08 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


「オフテイク契約が100%ないと駄目ですか」「DSCR(Debt Service Coverage Ratio)はどのくらい必要ですか」といった質問や相談をよく受ける。いずれもプロジェクトファイナンスを組成するための条件についての問い合わせである。いずれの質問も事業内容を理解しないと的確に回答することができない。

プロジェクトファイナンスは事業向けの融資である。そして、プロジェクトファイナンスの特徴の一つはノンリコースである。事業向けの融資でノンリコースであるということは、レンダーは原則事業のリスクを取る。レンダーが事業のリスクを取る以上、事業が諸種の条件を備えていることが必要である。冒頭の質問はこういった諸種の条件についての質問でもある。

プロジェクトファイナンスは事業向けの融資であるとは言ったものの、プロジェクトファイナンスがあらゆる事業に利用できるというわけではない。プロジェクトファイナンスの組成に成功している事業を仔細に観てゆくと、いくつかのタイプがあることが分かる。一つは資源開発事業である。筆者は短く「資源型」と呼んでいる。例えば、石油・ガス、鉄鉱石、銅、ニッケル等を採掘・生産する事業である。そもそもプロジェクトファイナンスが初めて利用されたのは石油開発の事業であった。具体的には1972年に組成された北海での油田(フォーティーズ油田)開発事業向けのファイナンスだと言われている。その後も間断なく世界各国の資源開発事業の資金調達にプロジェクトファイナンスが利用されてきた。近年ではLNG(液化天然ガス)事業で多額の資金調達をプロジェクトファイナンスで実現している。LNG事業は天然ガスの開発・生産ならびに液化の事業なので、石油開発事業の天然ガス版だと言っていい。そういう意味ではLNG事業向けのプロジェクトファイナンスは1972年以来のプロジェクトファイナンスの伝統を受け継ぐものと見ることもできる。

資源開発事業においてプロジェクトファイナンスを組成するための重要なポイントは何なのか。それは埋蔵量の優位性に尽きる。埋蔵量の優位性というのは埋蔵量の物理的な量が十分でかつ質も優れているというのはもちろんのこと、さらに採掘コスト・生産コストに競争力があるということである。後者は経済性と言い換えてもいい。優位性のある埋蔵量を有する資源開発事業は成功を概ね約束されている。プロジェクトファイナンスレンダーも安心して融資できる。

一方、資源開発事業向けプロジェクトファイナンスの難しさは生産物の価格が変動している点である。石油・ガス、鉄鉱石、銅、ニッケル等はいずれもグローバルな市場で取引されており、価格は毎日変動している。生産物の価格は変動してはいるものの、埋蔵量に優位性のある事業であれば、価格が低迷したときですらまずまずの収益を確保することができる。価格が低迷しても生き残ることができる。プロジェクトファイナンスレンダーは資源開発事業ならなんでも融資するわけではなく、同種の中でも埋蔵量に優位性のある事業に融資したいと思っている。

さらに資源開発事業向けのプロジェクトファイナンスで留意しておきたいのは、どんな種類の資源でもプロジェクトファイナンスの対象になっているわけではないという点である。例えば、昨今レアメタルが話題になっているが、レアメタルの開発事業でプロジェクトファイナンスが利用された事例は寡聞にして聞いたことがない。全く例がないとは断言できないが、例があったとしたら極めて稀であろう。1990年前後にオーストラリアで酸化チタンの資源開発事業向けのプロジェクトファイナンスがあった。酸化チタンは主に塗料や顔料に使用される。この事業は安定操業に苦慮し価格の低迷にも難儀した。レンダーは再三のリストラ交渉に疲弊した。今思えば、酸化チタンという資源の開発をプロジェクトファイナンスで採り上げたこと自体が間違っていたと言わざるを得ない。

既に「石油・ガス、鉄鉱石、銅、ニッケル等」と記載してきたが、これらの資源がよくプロジェクトファイナンスの対象とされる資源である。いずれも人間が長い間利用してきた資源で、市場で広く取引され、代替物が容易に見つからない資源である。資源開発事業向けのプロジェクトファイナンスでは実はこういった長い歴史があり、市場性があり、代替物がなかなか見つからない資源が対象となっている。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Kevin Harris on Unsplash

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