【コラム】(プロファイバンカーの視座)第19回 PF組成しやすい事業(5)「電力型」(石油・ガス分野)

2019.01.10 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


前回は発電事業以外の「電力型」事業として水事業が該当するという話をした。事業収入の安定している事業というのは発電事業・水事業以外にも存在する。思い出していただきたいが、この「PF組成しやすい事業」というテーマを最初に採り上げたときには「資源型」の話をした。石油・ガス、鉄鉱石、銅、ニッケル等を採掘・生産する事業がこれに該当する。そもそもプロジェクトファイナンスが初めて利用されたのは石油開発の事業であるとも記した。これらの「資源型」事業とは、いずれも上流の事業を指している。つまり、山元で採掘・生産する事業である。この点を改めて確認しておきたい。なぜなら、例えば石油・ガス分野でも中流や下流の事業では「資源型」ではなく、事業収入の安定した仕組みを持つ「電力型」の事業がいくつも存在するからである。

石油・ガス分野で「電力型」事業は、例えば次のような事業である。

(1)LNG船(液化天然ガスを運搬する専用船)
(2)FPSO(エフ・ピー・エス・オー、Floating Production and Storage Offloading system、浮体式石油生産・貯蔵・搬出設備)
(3)パイプライン
(4)FSRU(エフ・エス・アール・ユー、Floating Storage and Regasification Unit、浮体式LNG受入・再ガス化設備)
(5)北米LNG事業

これらの事業はそれぞれ石油・ガス分野の事業ではあるが、事業の類型は「資源型」ではなく、「電力型」である。どうしてこれらの事業が「電力型」なのか。一つずつ見てゆきたい。

(1)LNG船

今回はまずLNG船。LNG(液化天然ガス)を運搬する専用船がLNG船である。船の甲板に円球のタンクを数個乗せた船はまずLNG船である(これをモス型のLNG船という。LNG船にはこのほかに箱型のタンクを持つメンブレン型がある。)。天然ガスを液化して運搬する技術は1950年代に始まった。60年代には商業化が進み、日本は1969年にアラスカからLNGの輸入を始める。爾来今日に至るまで日本は世界最大のLNG輸入国である。

天然ガスは常温常圧で気体である。気体を運搬するというのは容易ではない。天然ガスの運搬方法は当初パイプラインしか存在しなかった。パイプラインだと近距離の運搬には問題ないが、遠距離になればなるほど建設費が上昇し経済的に難しくなる。そこで遠距離の運搬のために考えられたのが天然ガスの液化である。気体の水蒸気も冷やせば液体の水になる。これと同じ理屈で天然ガスも冷やせば液体になる。ただし、天然ガスの場合、零下162度まで冷やさないと液体にならない。気体が液体になる温度を沸点という(沸点の「沸」という字は「沸騰する」の「沸」なので、沸点の説明には「液体が気体になる温度」という方がしっくりくる。しかし、「液体が気体になる温度」も「気体が液体になる温度」も同じ水準の温度である)。水の沸点は摂氏100度で、天然ガスの沸点は零下162度ということになる。さらに気体が液体になると体積が縮小する。天然ガスの場合、液化されると体積が約600分の1になる。体積が縮小すると運搬するのに好都合である。

さて、LNG船の事業がどうして「電力型」の事業になるのか。これはLNGの売買契約の慣行が背景にある。LNGの売買契約というのは長期間に及ぶものが多い。15年や20年といった具合である。LNGの長期売買契約を締結すると、次はLNGを運搬するためにLNG船の手配をする。LNG船の手配をするというのは、具体的には船主と傭船契約(Charter Agreement)を締結するということである。この傭船契約の期間は通常LNGの売買契約の期間と一致させる。LNGの売買契約は期間20年なのに、仮にLNG船の傭船契約が期間10年だとすると、11年目以降の傭船契約を別途手配しなければならない。これは面倒だし、甚だ都合が悪い。従って、LNGの売買契約の期間とLNG船の傭船契約の期間とは一致させるのが普通である。そうすると、LNG船の傭船契約の期間も自ずと長期に及ぶ。さらに傭船契約の中で傭船料(Charter Payment)の金額は予め合意されている。

そうすると、LNG船事業というのは、長期傭船契約を持つことによって長期に亘り安定的な傭船料収入が期待できる。そこでLNG船事業向けのプロジェクトファイナンスが多く採り上げられるようになったのである。長期傭船契約のあるLNG船事業は、従って「電力型」事業である。(この稿続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

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