【コラム】(プロファイバンカーの視座)第23回 PF組成しやすい事業(9)「電力型」(石油・ガス分野)

2019.03.14 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


石油・ガス分野の「電力型」事業の最後にあたる「北米LNG事業」の続きである。

「シェールガスの大量生産」と「北米ガスパイプライン網」のお蔭で北米には従来のLNG事業とは異なる、液化プラントだけを建設・操業する「北米LNG事業」が生まれるようになった。液化プラントの建設・操業だけとは言っても事業費はかなりかかる。優に数千億円のレベルに達する。そこで事業主の中にはプロジェクトファイナンスを利用して事業費の資金調達を試みる者も少なくない。

しかし、通常のLNG事業と「北米LNG事業」は事業内容がだいぶ異なる。事業モデルが異なると言っていい。通常のLNG事業の本質は資源開発事業である。プロジェクトファイナンスの類型としては本稿最初に採り上げた「資源型」事業である。その強みは質と量の両面で優位性のあるガス埋蔵量の存在であり、競争力のあるガス生産コストである。「北米LNG事業」にはそういったガス埋蔵量に由来した強みはない。そもそも「北米LNG事業」は液化する事業だけなので、ガス埋蔵量の優位性云々は関係ない。原料となる天然ガスは市場で買ってくる。北米では天然ガスはヘンリーハブ(Henry Hub)というガスの市場価格で購入できる。既に指摘の通り、ガスパイプライン網は充実している。つまり、資源開発事業である通常のLNG事業は、天然ガスの質や量における埋蔵量の優位性で事業の基盤が成り立っているが、「北米LNG事業」は天然ガスを市場で購入し、その購入価格はヘンリ―ハブという市場価格になる。

このように見てくると、「北米LNG事業」は天然ガスの液化を業務とするいわば加工業である。資源開発事業ではない。従って「資源型」事業でもない。このことは資金調達としてプロジェクトファイナンスを利用する場合に大きな課題となる。なぜなら、資源開発事業である通常のLNG事業では、資源開発事業の強みである優位性のあるガス埋蔵量の存在やその結果としての競争力のあるガス生産コストに着目してプロジェクトファイナンスを組成しているからである。それに対して、加工業である「北米LNG事業」の場合、一体どこに着目してプロジェクトファイナンスを組成すれば良いのか。収益性はどうやって確保されるのか。これが大きな課題の正体である。

そこで、「北米LNG事業」では、プロジェクトファイナンス組成に当たり(プロジェクトファイナンスを組成するために、と言っても良いかもしれない)、事業収入を長期で安定させる仕組みづくりをしている。事業収入を長期で安定させる仕組みづくりとして用いられているのが、トーリング方式(Tolling Arrangement)と言われる手法である。これは事業主等が「北米LNG事業」に対して一定水準の加工費の支払いを長期で約束するものである。一定水準の加工費の中には操業費のほか借入金の約定返済分(いわゆるDebt Service)も含める。トーリング方式の下で支払われる代金をトーリング・フィー(Tolling Fee)と呼ぶ。トーリング・フィーは原則必ず支払われる仕組みなので、これまで採り上げてきた発電案件における電力代金やLNG船やFPSOにおける傭船料の仕組みに匹敵するものである。

「北米LNG事業」はトーリング・フィーの導入によって、プロジェクトファイナンスの組成が可能となっている。従って、「北米LNG事業」は「電力型」事業である。一方、通常のLNG事業は「資源型」事業である。両者ともLNG事業ではあるものの、事業モデルが全く異なる。そして、プロジェクトファイナンスの類型も異なる。さらに「北米LNG事業」は既に説明の通り「シェールガスの大量生産」と「北米ガスパイプライン網」という二大要因に支えられて生まれてきた北米の事業モデルである。この二大要因が存在しなければ生まれにくい事業モデルなので、「北米LNG事業」と同種の事業モデルは北米以外の他地域ではいまのところすぐに生まれてくる可能性は低い。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明 

*アイキャッチ Photo by Joshua Newton on Unsplash

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