【コラム】(プロファイバンカーの視座)第16回 PF組成しやすい事業(2)「電力型」

2018.11.22 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


プロジェクトファイナンスの組成に成功している事業にはいくつかのタイプがある、と前回記した。そして、その一つが資源開発事業で、これを「資源型」と称した。もっとも、現在の海外プロジェクトファイナンス市場を観ると、組成に成功している案件の約半数は電力事業である。ここでいう電力事業とは専ら発電事業である。こういう事実から、発電事業もプロジェクトファイナンスと相性が良いことが分かる。

そもそも発電事業にプロジェクトファイナンスが利用されるようになったのは1980年代の米国である。カーター政権時代にパーパ法(PURPA)という法律が成立した。この法律は発電事業の効率化を目指したもので、特に独立系事業者によるコジェネレーション(以下「コジェネ」)の新設を促した。コジェネというのは発電に加え、発電の際に生じる水蒸気も利用し、エネルギー効率を向上させる発電設備である。具体的には発電の際に生じる水蒸気を化学工場や温室ハウス(英語でGreenhouse)などに販売する。コジェネ事業を行う者は既存の電力会社と長期の電力売買契約を結ぶとともに、水蒸気の購入者とも長期の売買契約を結ぶ。電力会社はパーパ法によってコジェネ事業者との長期電力売買契約の締結を義務付けられた。この長期の電力売買契約を通称PPA(Power Purchase Agreement)と呼ぶ。

ところで、Power Purchase Agreementという英語は文字通り訳すと、電力購入契約である。電力売買契約ではない。通常売買契約は英語でSales and Purchase Agreementというので、電力売買契約なら本来 Power Sales and Purchase Agreementと表記すべきところである。ところが業界の慣習でPPA(Power Purchase Agreement)という呼称が定着している。この呼称ではSalesという言葉が欠けている。どうしてSalesという言葉が欠けているのであろうか。筆者の推測だが、米国のパーパ法で電力会社にコジェネ事業者との電力売買契約の締結が義務付けられていたことに由来するのではないかと思う。どういうことかというと、当時電力売買契約は専ら電力購入者である電力会社の視点から議論されていたはずなので、関係者は電力購入契約という呼称を頻繁に使用していたためではないかと思う。

さて、長期の電力売買契約が電力会社と締結されることによって、コジェネ事業は操業さえしっかり行えば事業収入は安定する。事業収入が安定するということはもちろんキャシュフローが安定するということである。そうするとプロジェクトファイナンスレンダーにとってはプロジェクトファイナンスが組成しやすい。コジェネ事業者にとってもノンリコースのプロジェクトファイナンスが利用できるのは幸いである。そこで80年代後半以降米国でパーパ法に基づくコジェネ事業向けのプロジェクトファイナンスが多数組成され、一大ブームを起こす。発電事業向けプロジェクトファイナンスの揺籃期の到来である。当初専ら資源開発事業に利用されていたプロジェクトファイナンスが発電事業にも利用されるようになったのは、米国のパーパ法に基づくコジェネ事業が発端だったのである。

最後に、発電事業向けのプロジェクトファイナンスが組成されるための主要条件を整理しておこう。

1)まず長期の電力売買契約が存在することである。「長期」というのは最低でも20年である。そのくらいの長期でないと発電設備の資本回収ができない。

2)電力売買契約の中で相応の電力代金が合意されていることが重要である。この電力代金の水準が事業主の事業利回りを決める。

3)電力購入者の信用力も重要である。20年(以上)の長期に亘って電力を購入し、電力代金を支払う能力があることである。

4)事業主の操業能力も重要である。発電自体に不具合が起これば収入が得られなくなる。

以上のような条件を充足した発電事業は長期に亘り事業収入が安定する。事業収入が安定しているので、レンダーはプロジェクトファイナンスが組成しやすい。事業収入が安定している事業は他にもあるが、長期電力売買契約を持った発電事業が代表的なので、このタイプの事業を筆者は「電力型」と呼んでいる。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Thomas Habr on Unsplash

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