【コラム】(プロファイバンカーの視座)第17回 PF組成しやすい事業(3)「電力型」

2018.12.13 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


前回発電事業向けプロジェクトファイナンスは米国のパーパ法に基づくコジェネ事業が発端だったと記した。1980年代後半のことである。筆者は実は1990年の1月に当時勤務していた邦銀の国内支店から本店のプロジェクトファイナンス部に異動した。そして、同邦銀が米国でのコジェネ事業向けプロジェクトファイナンスを積極的に採り上げているのを目の当たりにした。当時既に米国でのコジェネ事業向けプロジェクトファイナンス案件を約50件相当採り上げており、邦銀の中でも群を抜いていた。米国のプロジェクトファイナンス市場はコジェネ事業一色という状況であった。

現在米国の発電事業でマーチャント案件がブームを起こしている。米国での発電事業ブームはコジェネ事業ブーム以来である。もっとも、マーチャント案件は長期の電力売買契約がない。電力は卸売市場で販売する。電力市場の自由化が進展した結果とはいえ、長期電力売買契約のある発電事業とそれがない発電事業は、事業リスクの質もレベルも全然違う。約30年前のコジェネ事業ブームのときは後刻事業が問題を引き起こすことも稀で、従ってプロジェクトファイナンスのローンが不良債権化することもほとんどなかった。しかし、今般のマーチャント案件ブームは少々異なる結末が待っているかもしれないと筆者は危惧している。長期の電力売買契約がないマーチャント案件は事業として本質的に危うさを内包しているからである。

もっとも、米国のマーチャント案件に対しても、現在のところプロジェクトファイナンスが組成されている。この一事を以って「レンダーにとってマーチャント案件もPF組成しやすい事業ではないのか」と問う向きもあろう。長期の電力売買契約のないマーチャント案件がプロジェクトファイナンスの組成しやすい事業であるのかどうか。これについて筆者は懐疑的である。理由は少なくとも2つある。

1つ目の理由は、組成されているプロジェクトファイナンスは悉くミニパーム(Mini-Perm)といわれるローンで、返済期間が5年から7年程度と極めて短いからである。この短い期間では元金を完済することは到底できない。従って、リファイナンス(借り換え)を余儀なくされる。借入金を完済するためには1回か2回、場合によるとそれ以上の回数リファイナンスをしなければならない。リファイナンス毎に融資条件の見直しが行われる。融資条件が多少悪化したとしてもリファイナンスができればまだ幸いである。事業の収益状況が芳しくなければ、リファイナンス自体が失敗することだってあり得る。リファイナンスが失敗すれば、事業は継続することが難しくなり、プロジェクトファイナンスのローンも一部回収不能になりかねない。

2つ目の理由は、現在の金融環境が著しく緩和しているからである。日本の80年代のバブル発生も金融緩和が遠因である。金融が緩和しているときには、異形のファイナンスが出現してくる。そして、その異形のファイナンスはときにイノベーションという名前の衣を纏っている。

「起こっていることはすべて正しい」という言説がある。自然界や生物界ではその通りかもしれない。しかし、有象無象の人間が造り上げる金融の世界では、起こっていることはすべて正しいわけではない。正しくないことも起こる。その証拠に、金融危機は過去何度も繰り返し発生している。

マーチャント案件というのは発電事業ではあるけれども、長期電力売買契約がなく、従って事業収入の安定した事業ではない。筆者は事業収入の安定した仕組みを持つ事業、つまり収入水準の決まった長期オフテイク契約のある事業を「電力型」事業と定義している。従って、マーチャント案件は発電事業ではあっても「電力型」ではない。上記に説明の通り、PF組成しやすい事業でもない。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Erol Ahmed on Unsplash

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