【コラム】(プロファイバンカーの視座)第95回 ファイナンスと事業利回り(1)ーはじめに

2022.03.10 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


今回から新しいテーマを採り上げてゆく。新しいテーマは「ファイナンスと事業利回り」である。「ファイナンス」という言葉は一般的にはファイナンス全般を広く指すが、ここではプロジェクトファイナンスの意味で使用する。より正確に言えば、プロジェクトファイナンスによる借入金の意味で使用する。「事業利回り」は文字通り事業の利回り、つまり事業の経済性・収益性のことを指している。事業の経済性・収益性はもちろん事業へ出資する者つまり出資者(スポンサー)にとっての経済性・収益性のことである。従って、事業利回りは出資者(スポンサー)が事業に出資することによって得られる事業からの利回りのことである。利回りというと、預金、株式、投資信託などの金融商品から得られる預金利息、株式の配当金、投資信託の分配金などを年率で表示したものを想起しがちかもしれない。事業投資の場合であっても、事業に出資して将来どれほどの配当金が得られるのかを年率で表示することは可能である。これが事業の利回りである。利回りという観点だけから言うと、金融商品へ資金を拠出することも事業へ資金を拠出することもなんら変わらない。

事業利回りのことをファイナンス用語では「内部収益率」と言う。内部収益率という言葉は英語のIRR(Internal Rate of Return)の日本語訳である。筆者の印象では、内部収益率という言葉は日本のビジネスの現場であまり人口に膾炙していないように思われる。内部収益率という言葉のうちの「内部」という言葉がどうも災いしているのはないかと訝っている。内部収益率のうちの「内部」という言葉を聞くと、ファイナンス用語に馴染んでいない方には事業利回りのことを指しているのか、なにか別なものを指しているのか、分かりにくい。この点が内部収益率という言葉が日本のビジネスの現場であまり浸透していない主な理由のように思われる。

ビジネスの現場ではおそらく「この事業の利回りはどのくらいになるのか」「この事業のリターンは少し低くないか」といったやり取りが普通であろう。もちろん、「この事業の内部収益率はどのくらいになるのか」「この事業のIRRは少し低くないか」と言っても同じ意味である。後者の言い方はファイナンス用語を用いているというだけのことである。ビジネスの現場にはファイナンス用語に習熟した方ばかりではないので、内部収益率やIRRという言葉が電光石火の如く関係者一同に通じるとは限らない。そこで自ずと「事業(の)利回り」や「事業(の)リターン」という言葉が広く使われるようになったのだろうと推察する。

ビジネス用語の「事業(の)利回り」や「事業(の)リターン」がファイナンス用語の「内部収益率(IRR)」と同一なのだということを改めて確認するのは甚だ有益だと思う。なぜなら、ビジネスパーソン各氏がファイナンスの本を読んだときに「内部収益率(IRR)」という言葉に抵抗がなくなるからである。ファイナンスの本で言うところの「内部収益率(IRR)」がビジネスの現場で言うところの「事業(の)利回り」や「事業(の)リターン」と同一なのだと分ければ、ビジネスパーソン各氏のファイナンス・リテラシーは一層深まるはずである。

さて、今回から採り上げてゆく新しいテーマは「ファイナンスと事業利回り」である。テーマのタイトルには「事業利回り」という言葉を使用しているが、筆者は文章の記述では「内部収益率(IRR)」という言葉を使用してゆく。「内部収益率(IRR)」という言葉にまだ馴染んでおられない方は、頭の中で「事業(の)利回り」や「事業(の)リターン」のことだと解して頂きたい。そして、新しいテーマではプロジェクトファイナンスの借入金によって出資者(スポンサー)の事業利回りつまり内部収益率(IRR)がどう変化してゆくのか、という点を見てゆこうとしている。もう少し敷衍すると、プロジェクトファイナンスの借入金の借り入れ条件が変化してゆくと出資者(スポンサー)の事業利回りつまり内部収益率(IRR)はどう変化してゆくのか、という点を見てゆく。

どうしてこのテーマを採り上げるのか。それは例えば昨今再生可能エネルギー事業に関わる方々がプロジェクトファイナンスで借入することに大変興味を持っておられるからである。プロジェクトファイナンスで借入することが可能かどうかに腐心されるのはもちろんであるが、果たしてその借入金の借り入れ条件の詳細にまで意を用いることができているのかどうか、と老婆心を持って感じているからである。「ノンリコースであるプロジェクトファイナンスでの借入ができさえすれば御の字」という段階で満足してしまうと、借り入れ条件の詳細のところまではなかなか行き着かない。しかしながら、ノンリコースであるプロジェクトファイナンスで借入を実現することに加えて、その借り入れ条件を借主・出資者(スポンサー)にとって少しでも有利に変更することができれば、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)はさらに向上させることができる。本テーマでは事例とキャッシュフロー表を用いながら、ファイナンス条件の変更が出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)に与える影響を検証してゆきたいと思う。(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Jeremy Bezanger on Unsplash

【バックナンバー】
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第94回 キャッシュフロー・コントロール手法(45) まとめ6
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第93回 キャッシュフロー・コントロール手法(44) まとめ5
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第92回 キャッシュフロー・コントロール手法(43) まとめ4
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第91回 キャッシュフロー・コントロール手法(42) まとめ3
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第90回 キャッシュフロー・コントロール手法(41) まとめ2
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第89回 キャッシュフロー・コントロール手法(40) まとめ1
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第68回 キャッシュフロー・コントロール手法(19) 応用モデル
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第55回 キャッシュフロー・コントロール手法(6) 基本モデル
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第53回 キャッシュフロー・コントロール手法(4)体系概観

【おススメ!】
【Zoomセミナー紹介】『 プロジェクトファイナンスの実務【基礎編】~概観・リスク分析およびストラクチャリングを中心に~ 』の開催 (2022年05月19日)

, , , , , , ,


デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

月別アーカイブ