【コラム】(プロファイバンカーの視座)第86回 キャッシュフロー・コントロール手法(37) 応用モデル

2021.10.28 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


(4)キャッシュ・スイープ(Cash Sweep)続きー内部収益率と配当金の現在価値

前回はキャッシュ・スイープを導入した場合の分析結果を借用して、借入金の返済期間が異なる場合にスポンサーにどんな影響を及ぼすのかという点を検証してみた。その結果、「スポンサーの内部収益率(IRR)を向上させるためには、借入金の返済期間は長ければ長い方が良い」ということを確認した。

繰り返しになるが、借入金の返済期間が短くなればレンダーに支払う支払利息の総額は通年で減少する。その結果、スポンサーが受領できる配当金の総額は通年で増える。しかしながら、借入金の返済期間が短くなると、スポンサーの内部収益率(IRR)は低下余儀なくされる。この最後の点、つまりスポンサーが受領できる配当金の総額が通年で増えているのに、スポンサーの内部収益率(IRR)が低下するという点が重要である。どうしてこういうことが起こるのだろうか。この点について今回もう少し説明をしておきたいと思う。この点は内部収益率(IRR)は配当金の現在価値に連動しているというところがポイントである。しかし、配当金の現在価値に連動しているとは具体的にはどういうことなのであろうか。具体例を用いながら説明しておきたい。

具体例として、まず以下のようなケース(Case A)を想定して見てみることにする。

【Case A】
返済期間:10年
支払利息の総額:USD84M
配当金の総額:USD280M (毎年の配当金USD28M)
配当金の現在価値の合計:USD158.2M (割引率は12%)

このCase Aでは借入金の返済期間を10年とする。そして、レンダーに支払う支払利息(Interest Payment)の総額は10年でUSD84M。スポンサーが受け取る配当金(Dividends)は毎年USD28Mで、10年で総額USD280Mとする。このCase Aを簡単なキャッシュフロー表にして示すと、次の通りである。

【Case A】

(*上記画像をクリックすると別ウィンドウが開き、大きな画像で見ることができます。)

さて、このCase Aの配当金の現在価値を算出してみよう。各年の配当金の金額をそれぞれ現在価値で計算した数値を上記表の一番下の行に記載している。1年目の配当金額USD28Mの現在価値がUSD25M、2年目の配当金額USD28Mの現在価値がUSD22.3M、3年目の配当金額USD28Mの現在価値がUSD19.9Mといった具合である。ちなみに、10年目の配当金額USD28Mの現在価値はわずかUSD9Mになってしまう。USD9MはUSD28Mの3分の1以下である。このCase Aでは各年の配当金額を一律USD28Mにしている。しかし、それぞれ現在価値でみてゆくと時間の経過とともに減価してゆくことが分かる。なお、現在価値を計算するためには割引率を用いなければならない。ここでは事業投資における内部収益率(IRR)の文脈で議論しているので、事業投資の標準的な事業利回りを割引率に使用するのが適切であろう。従って、ここでは配当金の現在価値を算出するために12%の割引率を使用している。1年目の配当金額USD28Mの現在価値は28/(1+0.12)という計算式で算出できる。そうすると解はUSD25Mになる。2年目の配当金額USD28Mの現在価値は28/(1+0.12)/(1+0.12)という計算式になる。そうすると解はUSD22.3Mになる。3年目の配当金額USD28Mの現在価値は28/(1+0.12)/(1+0.12)/ (1+0.12)という計算式で、解はUSD19.9Mになるといった具合である。

このCase Aの配当金の現在価値の合計はいくらになっているだろうか。上記表の一番下の行の右端を見て頂くと、配当金の現在価値の合計がUSD158.2Mとなっている。配当金10年分の単純合計がUSD280Mであるのに対して、配当金の現在価値はUSD158.2Mになっている点に留意して頂きたい。内部収益率(IRR)を向上させるためには、配当金の現在価値を引き上げる必要がある。なぜなら、内部収益率(IRR)は配当金の現在価値に連動しているからである。(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

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