【コラム】(プロファイバンカーの視座)第80回 キャッシュフロー・コントロール手法(31) 応用モデル

2021.07.22 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


(4)キャッシュ・スイープ(Cash Sweep)

今回からキャッシュ・スイープ(Cash Sweep)を採り上げる。キャッシュ・スイープのスイープ(Sweep)という英単語は本来「箒(ほうき)で掃く、掃除をする」という意味の動詞である。そうすると、文字通りに解釈すれば、キャッシュ・スイープという言葉はお金をゴミやほこりのように掃くという意味になる。これでは一体どういうことなのか理解できない。ここでのキャッシュ・スイープという言葉は「現金を吸い上げる」というくらいの意味である。プロジェクトファイナンスの文脈では、事業から生まれる余剰キャッシュを吸い上げる、という意味である。それでは事業から生まれる余剰キャッシュを吸い上げて、どこへ持ってゆくのか。余剰キャッシュを吸い上げて借入金の返済に充当するのである。つまり、キャッシュ・スイープとは本来なら配当金の支払いに充てられる余剰キャッシュの一部を借入金の返済に充当するということである。プロジェクトファイナンスの融資契約書でキャッシュ・スイープが規定されていれば、余剰キャッシュの一部は強制的に吸い上げられ、借入金の返済に充当される。なお、ここでいう余剰キャッシュとは借入金の返済スケジュール上で定められている約定返済を行った後に残るキャッシュのことである。従って、キャッシュ・スイープで行われる借入金の返済は約定返済のことではなく、通常繰り上げ償還(注)のことである。

下記にキャッシュ・スイープのイメージを図表にしておいたので、ご覧いただきたい。なお、余剰キャッシュは配当可能金額のことである。

上記の図表の右側がキャッシュ・スイープを導入した場合を示している。キャッシュ・スイープの導入のない通常の場合を示しているのが左側である。通常の場合であれば、余剰キャッシュ(配当可能金額)は全額配当金としてスポンサー(出資者)に支払って構わない。しかし、キャッシュ・スイープが導入されている場合(右側)は、余剰キャッシュの一部を借入金の返済に充当しなければならない。この図表では余剰キャッシュのうち50%を配当金の支払いに、50%を借入金の返済に充てる例を示している。

余剰キャッシュのうち、どれくらいの割合が借入金の返済に充当されるのか。あるいはどのくらいの割合が配当金として支払われるのか。これがキャッシュ・スイープにおける配当金支払と借入金返済との按分比率の問題である。この按分比率をどうするのかという点はキャッシュ・スイープを導入するうえで借主(あるいはスポンサー)とレンダー間の非常に重要な交渉事項になる。上記図表で示したような「50%配当金支払/50%借入金返済」はもっともよく見られるキャッシュ・スイープの按分比率である。この他に、「75%配当金支払/25%借入金返済」や「25%配当金支払/75%借入金返済」などの按分比率の例もある。「75%配当金支払/25%借入金返済」は余剰キャッシュのうち75%がスポンサーへの配当金支払いとなるので、スポンサーに有利である。他方、「25%配当金支払/75%借入金返済」は余剰キャッシュのうち75%が借入金への返済となるので、レンダーに有利である。

プロジェクトファイナンスの組成において、そもそもキャッシュ・スイープを導入するのかどうかという議論自体が重要な論点ではある。仮に借主とレンダーでキャッシュ・スイープの導入自体には合意したとしても、キャッシュ・スイープの按分比率をどうするのかという点はさらに交渉の余地がある。こういう借主とレンダーとの間の駆け引きはプロジェクトファイナンスの業務において、甚だスリリングな瞬間でもある。(次回に続く)

注)繰り上げ償還と同じ意味で、内入れ(うちいれ)や期前償還という言い方もある。英語では一般にprepaymentと言う。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Andy Holmes on Unsplash

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