【コラム】(プロファイバンカーの視座)第74回 キャッシュフロー・コントロール手法(25) 応用モデル

2021.04.22 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


(1) キャッシュ・デフィッシャンシー・サポート(Cash Deficiency Support)続き

キャッシュフロー・コントロール手法と事業タイプとの間には緊密な関係がある。これがまず原則ではある。しかしながら、原則には必ず例外がある。こういう指摘をして前回終わった。そこで今回はその例外について考えてゆきたい。

(キャッシュフロー手法と事業タイプの関連図)

上記に前回掲載した関連図をもう一度掲載する。前回は敢えて言及しなかったが、上記の関連図では青色の点線で示した「電力型」事業の四角の一部と「資源型」事業の四角の一部が右側の応用モデルのところに少し突き出ている。この突き出ている箇所を説明の都合上それぞれ(a)と(b)とする。この(a)と(b)の箇所が例外を示している。つまり、(a)の箇所は「電力型」事業ではあるがキャッシュフロー手法の応用モデルを必要とするものを指している。同様に、(b)の箇所は「資源型」事業ではあるがキャッシュフロー手法の応用モデルを必要とするものを指している。繰り返しになるが、キャッシュフロー・コントロール手法と事業タイプとの間には緊密な関係があって、「電力型」事業と「資源型」事業の多くはキャッシュフロー・コントロール手法の基本モデルだけで通常事足りている。これが原則である。しかし、原則には例外がある。この例外を示しているのが上記の関連図の(a)と(b)の箇所である。

さて、そうすると、(a)や(b)の箇所に当てはまる事業というのは具体的にどんな事業なのであろうか。まず、(a)の「電力型」事業であるがキャッシュフロー・コントロール手法の応用モデルを必要とする事業というのは、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの事業が該当する。その理由は太陽光発電も風力発電も気象条件(日照時間や風量)によって発電量が変わるからである。発電量が変われば電力収入(事業収入)も増減する。再生可能エネルギーの事業は「実際の発電量」によって事業収入が決まるという点は注意を要する。これまでプロジェクトファイナンスの世界では発電事業と言えば火力発電の事業が大勢を占めていた。火力発電の事業では「実際の発電量」によって電力収入(事業収入)が決まるのではなく「発電容量」によって決まる。なぜなら、火力発電事業の売電契約書には通常キャパシティ・ペイメント(capacity payment)という仕組みが入っており、発電設備がいつでも発電できる状態にあれば「実際の発電量」にかかわらず、「発電容量」に応じた所定の電力代金が受領できるからである(下記の図をご参照)。

(火力発電と再エネの電力収入の仕組みの違い)

ところが太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー事業は同じ発電事業とは言っても、「実際の発電量」によって電力収入(事業収入)が決まるのである。従って、事業収入は増減する。そもそも「電力型」事業は事業収入が安定しているという特長があった。火力発電事業はまさにその典型例である。ところが、同じ発電事業ではあっても太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー事業は事業収入が増減余儀なくされる。そのため、キャッシュフロー・コントロール手法も応用モデルが必要になるということである。 なお、太陽光発電や風力発電の事業についてプロジェクトファイナンスのキャッシュフロー・コントロール手法の応用モデルには、ディファーラル(Deferral)やキャッシュ・スイープ(Cash Sweep)の利用が多くみられる(注)。キャッシュ・デフィッシャンシー・サポートが利用されている例は必ずしも多くはない。(次回に続く)

注)ディファーラル(Deferral)やキャッシュ・スイープ(Cash Sweep)については後刻採り上げてゆく。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Jason Blackeye on Unsplash

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