2024.10.05
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第67回 キャッシュフロー・コントロール手法(18) 基本モデル
2021.01.14 連載コラム
(4)配当制限(Dividend Restriction)続き
前回に続き配当制限を採り上げる。配当制限の内容として融資契約書に記載される具体的な条件を以下にもう一度例示する。前々回例示として挙げたものは次の5つである。
1.完工していること 2.第1回目の約定返済が完了していること 3.デフォルトが発生していないこと 4.デッドサービス・リザーブアカウントおよびその他の準備金口座に所定の資金が入金されていること 5.デッドサービス・カバレッジレシオ(DSCR)が所定以上であること
上記5つの条件のうち、前回までに「3.デフォルトが発生していないこと」までを説明してきた。今回は残りの「4.デッドサービス・リザーブアカウントおよびその他の準備金口座に所定の資金が入金されていること」と「5.デッドサービス・カバレッジレシオ(Debt Service Coverage Ratio)が所定以上であること」を採り上げる。
まず、「4.デッドサービス・リザーブアカウントおよびその他の準備金口座に所定の資金が入金されていること」である。デッドサービス・リザーブアカウント(Debt Service Reserve Account)とは、借入金の約定返済用の資金を用意しておく準備金口座である。デッドサービス・リザーブアカウントの「所定の資金」は、通常向こう6か月分の約定返済金の金額とすることが多い。デッドサービス・リザーブアカウントに所定の資金が入金されていることという条件は、完工の条件としても挙げられるのが普通である。従って、完工し操業を開始した時点でデッドサービス・リザーブアカウントに所定の資金が入金済であることが普通である。それにもかかわらず配当の条件としてここに挙げられているのは、操業期間中に資金不足を起こしてこのデッドサービス・リザーブアカウントの資金(の一部)を使用していることもあるので、その場合には再び所定の資金の金額まで入金されないと配当金の支払いはできない、という趣旨である。
その他の準備金口座には、例えば定期的な修繕費を積み立てておく修繕費準備金口座がある。洋上風力事業では通常事業期間終了後に洋上に設置した発電機を撤去する必要がある。鉱山事業では通常事業期間終了後に植林を行い緑化に戻す必要がある。これらの撤去費用や植林・緑化費用を予め積み立てておく撤去費用準備金口座や植林・緑化費用準備金口座が設けられることもある。これらの準備金口座への所定の資金の入金を軽んじてまで配当金の支払いを認めるものではない、というのが本条件の趣旨である。
最後に「5.デッドサービス・カバレッジレシオ(Debt Service Coverage Ratio)が所定以上であること」という条件である。ここでまず注意しておきたいのは、このデッドサービス・カバレッジレシオは実績(actual)値ベースなのか、それとも将来の見込み(projected)値ベースなのか、という点であろう。まず実績値ベースとするのは必須である。例えば配当金支払い予定日の直近二連続四半期のデッドサービス・カバレッジレシオの実績値が所定の数値を達成していること、といった具合である。この実績値ベースに加えて、さらに将来の見込み値ベースの数値をも配当金支払いの条件とする場合がある。念には念を入れてということかもしれないが、将来の見込み値ベースは所詮見込みの数値に過ぎないので、どうしても主観が入り混じり客観的な条件とは言い難い。この点で将来の見込み値ベースはその有効性に疑問なしとしない。
なお、ここでいう「所定」とされるデッドサービス・カバレッジレシオの水準についても少々触れておきたい。デッドサービス・カバレッジレシオの所定の水準は案件によって異なる。資源開発案件は生産物の価格が変動するので、所定のデッドサービス・カバレッジレシオの水準は高くなる(例えば、1.80から2.00以上)。一方、発電案件のように売電契約によって事業収入が安定している案件は所定のデッドサービス・カバレッジレシオの水準は比較的低い(例えば、1.30から1.50程度)。ちなみに筆者は前者を「資源型」案件、後者を「電力型」案件と呼び、両案件のタイプを類型化し峻別している。(基本モデル了)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
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