2024.10.05
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第65回 キャッシュフロー・コントロール手法(16) 基本モデル
2020.12.10 連載コラム
(4)配当制限(Dividend Restriction)続き
前回に続き配当制限を採り上げる。前回はキャッシュフロー・コントロール手法の基本モデルを構成する4つの手法を復習するとともに、配当制限とは何なのか、何のためにあるのかを確認した。配当制限は事業会社(借主)から出資者への配当金の支払いの際に付されている諸種の条件のことを指しており、その目的は事業会社から無闇に配当金支払の形で資金が流出するのを防ぐためである。もちろん、それはプロジェクトファイナンス・レンダーの利益(具体的には返済原資)を守るためである。プロジェクトファイナンス・レンダーはノンリコースで事業会社に融資を行っているため他に返済を求める先がないので、借主である事業会社のキャッシュフローを厳格にコントロールする必要がある。それが配当を制限する理由である。
さて、今回は配当制限の具体的な内容を見てゆく。配当制限の内容として融資契約書に記載されるものを例示すれば、例えば次のようなものである。
1.完工していること 2.第1回目の約定返済が完了していること 3.デフォルトが発生していないこと 4.デッドサービス・リザーブアカウントおよびその他の準備金口座に所定の資金が入金されていること 5.デッドサービス・カバレッジレシオ(DSCR)が所定以上であること
それぞれについて、上記の順に説明をしてゆく。
まず、「1.完工していること」であるが、これは完工するまで配当金の支払いを禁ずる趣旨である。事業に必要な諸施設(例えば、発電事業であれば発電所等の諸施設)が完工する前に配当金の支払いを禁ずるというのは当たり前のようではあるが、融資契約書にはしっかり明記される。明記されないと、完工前でも配当金の支払はできるのではないかと疑義が生じるのを防ぐためであろう。従って、例えば建設費用が予算を下回り資金が手元に残ったからといって、完工前に配当金の支払いはできない。事業は完工後に稼働を開始し、収入を生むようになる。稼働を開始し収入を生むようになってはじめて、配当金の支払いを可能とするものである。
次に、「2.第1回目の約定返済が完了していること」であるが、この条件も上記の「1.完工していること」の趣旨に似ている。完工するまで配当金の支払いを禁ずるにとどまらず、第1回目の約定返済を完了するまで配当金の支払いを禁ずるものである。完工を達成するだけでは十分ではなく、さらに第1回目の約定返済を完了してはじめて配当金の支払いを認めるものである。例えば、建設スケジュールが前倒しで進み、完工を早期に達成することもあろう。そのようなケースでは配当金支払いの条件を「1.完工していること」とするだけで、「2.第1回目の約定返済が完了していること」という条件を記載していなければ、配当金の支払いは可能だということになってしまう。このように早期に完工を達成したケースであっても、第1回目の約定返済を完了していなければ配当金の支払いを認めないという趣旨である。
次に、「3.デフォルトが発生していないこと」であるが、この条件については少々疑問に思う方がおられるのではないだろうか。なぜなら、事業会社の資金が枯渇してデフォルトを起こしているのであるなら、そもそも配当金に充てる資金もないはずだ、と考えられるからである。そう考えると、デフォルトを起こしていたらそもそも配当金の支払いに充てる資金もないはずだから、「デフォルトが発生していないこと」という条件は、言わずもがなの条件なのではないのか。(この稿続く)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
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