【コラム】(プロファイバンカーの視座)第60回 キャッシュフロー・コントロール手法(11) 基本モデル

2020.09.24 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


(2)キャッシュ・ウォーターフォール(Cash Waterfall)

前回まで4回に亘り、収入アカウントを採り上げてきた。キャッシュフロー・コントロール手法の中で収入アカウントの話題はもちろん重要であるが、キャッシュフロー・コントロール手法の本丸は何と言ってもキャッシュ・ウォーターフォール(Cash Waterfall)である。今回はいよいよこの本丸を見てゆく。

まずキャッシュ・ウォーターフォールという名称について触れておきたい。キャッシュ・ウォーターフォールという英語の文字通りの意味は「資金(あるいはお金)の滝」である。ウォーターフォールは「滝」のことである。なぜ「資金の滝」などという名称が付いているのか。それはこの仕組みを図示すると、いかにも「滝」のように見えるからである。もっとも日本語に直訳すると「資金の滝」になるが、この仕組みのことを日本語で「資金の滝」と呼ぶ人はいないと思う。斯界の人は英語のままキャッシュ・ウォーターフォールと呼称するのが普通である。

キャッシュ・ウォーターフォールの機能や目的は、既に過去の本コラムで触れているように、事業会社の支出を管理することである。具体的には事業会社が支出することができる項目を列挙し、支出項目を予め明示的に定めておく。ここに定めていない支出項目への支出を禁ずる趣旨である。通常支出が認められる支出項目は、例えば原材料費、燃料費、人件費、販促費、賃借料、修繕費などの通常の操業を行うために必要な支出(操業費)である。事業収入から操業費を差し引くと利益が出る。利益が出れば税金を納めるであろうから、税金の納付(納税)も支出項目に挙げられる。操業費も税金も言うまでもなく事業を継続するために必須な支出項目である。

操業費や税金のあとは、プロジェクトファイナンスで借入した借入金の約定返済のための支出がある。さらにレンダーへの約定返済を済ませたあとは、さまざまな準備金口座(リザーブアカウント)に資金を補充する。準備金口座の代表例が、このあとに出てくるデッドサービス・リザーブアカウント(Debt Service Reserve Account)である。デッドサービス・リザーブアカウントの他には、定期的な設備更新のために資金の積み立てを行う準備金口座を設けることもある。また事業によっては何らかの特定の事柄に備えるためにその事業特有の準備金口座を用意することもある。さて借入金の約定返済も済ませ準備金口座への資金補充も済ませると、いよいよ株主(出資者あるいはスポンサー)への配当金の支払が行われる。

上記で説明してきた資金の各支出の時間的な周期について触れておきたい。どういうことかというと、それぞれの支出が行われる周期は必ずしも同じではなく、異なっていることに注意したい。例えば操業費は毎月発生する支出である。納税は事業所在国の税制次第ではあるが、年に1回か2回であろう。借入金の約定返済は3か月に1回(quarterly repayment)という場合が最も多い。配当金の支払は年に2回程度であろうか。こういった各支出の周期は異なるものの、キャッシュ・ウォーターフォールの仕組みは影響を受けない。事業会社の支出を管理するという機能や目的は貫徹されている。

さてキャッシュ・ウォーターフォールの機能や目的は、事業会社の支出を管理する以外にもう一つある。それは各支出項目間の優先順位を定めていることである。なぜ支出項目間で優先順位を定めておく必要があるのか。それは万が一事業会社の収入が減少・不足したときに、なにを優先して支出すべきかを予め決めておくためである。事業会社の収入が減少・不足したときに、支出項目の優先順序について事業会社(借主)の恣意に任せることはしないという趣旨である。

以上をまとめると、キャッシュ・ウォーターフォールの機能や目的は、1)事業会社の支出項目を予め明示的に定めて支出を管理するほか、2)支出項目間の優先順位を定める、ということである。具体的な支出項目は通常a)操業費(修繕費を含む)、b)税金、c)借入金の約定返済、d)デッドサービス・リザーブアカウント等の準備金口座への入金、e)配当金支払である。そして、支出の優先順位はa)からe)の順である。これを図示してみると、おおよそ次の通りである。

この図が「滝」のように見えるかどうかは読者各位のご判断にお任せしたいと思う。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ フォトマット・ウィテカーUnsplash

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