【コラム】(プロファイバンカーの視座)第51回 キャッシュフロー・コントロール手法(2)

2020.05.14 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


前回はプロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法の内容と目的について説明した。キャッシュフロー・コントロール手法の内容は、「入りを量りて出ずるを制す」ることであり、その目的はプロジェクトファイナンスのレンダーが融資の返済を確実にするためである。

ところで、「レンダーは融資の返済を確実にするために、事業会社(借主)の資産を担保に取っているではないか」という疑問を持たれる方もおられたかもしれない。確かに、プロジェクトファイナンスのレンダーは事業会社(借主)の資産を担保に取っている。担保に取っているものは、具体的には事業会社(借主)の不動産、動産、商業契約書、知的財産権などで、いわば事業会社(借主)の総資産を担保に取っている。「レンダーは十分な担保を取っているのに、さらにキャッシュフロー・コントロールも必要なのか」というのが、この疑問が起こる理由だと思われる。

レンダーが取得している事業会社(借主)の総資産への担保とキャッシュフロー・コントロールとの関係について、レンダーの考え方を整理しておきたい。借主の総資産を担保に取っていてもなお、レンダーがキャッシュフロー・コントロールを必要とするのは、レンダーは事業会社(借主)が創出するキャッシュフローから融資を返済してほしいと考えているからである。事業会社(借主)が計画通り事業を成功させ、そしてその結果十分なキャッシュフローを創出してゆき、そこから約定返済スケジュールに基づいて首尾よく融資を返済してほしいと願っているからである。レンダーが事業会社(借主)の総資産を担保に取っているとは言え、やむなくその担保を処分して融資の回収余儀なくされるときというのは、実は事業会社(借主)の事業が(実質)破綻したときである。「手術は成功したが、患者は死んだ」(融資は回収したが、事業は潰れた)というような結果に終わってしまうのは、金融機関の社会的な使命を果たしたことにはならない。担保の取得は最悪時のために備えたものである。レンダーは担保処分によって融資の回収を図ることを最終手段としか捉えていない。最終手段であって、かつ大抵は最悪の手段でもある。なぜなら、事業が(実質)破綻してレンダーが担保処分で融資の回収を試みる場合、融資金の回収率は100%を遥かに下回ることが多いからである。つまり、レンダーは担保処分で融資金の全額回収を図れることは少ない。

表現を変えると、プロジェクトファイナンスにおけるキャッシュフロー・コントロール手法は正常時を想定した仕組みである。一方、プロジェクトファイナンスのレンダーが事業会社(借主)の総資産を担保に取っているのは非常時を想定した仕組みである。正常時の仕組みは、事業会社の事業が順調に推移することを前提にしており、事業が順調に推移することによって、キャッシュフローが創出され、その創出されたキャッシュフローから約定返済スケジュールに則って融資の返済が進む。事業会社(借主)もレンダーも、この正常時の仕組みで物事が進むことを最も期待しており、またこの正常時の仕組みで終始することが健全だと思っている。非常時の仕組みは、レンダーが最悪時を想定して、その際に融資の回収を少しでも図れるように備えているだけである。例えて言えば、自動車を運転する際安全ベルトを締めるが、安全ベルトを締めていても死亡事故を完全に防げるわけではない。非常時の仕組みであるレンダーによる担保の取得は、いわば自動車の安全ベルトのようなものであろう。そもそも交通事故(事業の破綻)を起こさないことが最善であることは言うまでもない。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Scott Webb on Unsplash

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