【コラム】(プロファイバンカーの視座)第44回 PF組成しやすい事業(30)「資源型」と「電力型」の比較

2020.01.23 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件を分析した結果について、引き続き考えてゆきたい。第41回のコラムに掲載した分析結果を振り返ると、「資源型」でも「電力型」でもない事業に対してプロジェクトファイナンスが組成されていた。案件数としては69件のうちの3件(4.3%)、組成額(融資額)としては1,057億米ドルのうち109億米ドル(10.3%)である。案件数で見たときには、わずか3件で全体の5%にも満たないので統計的にはたいして意味のあるものではないかもしれない。しかし、組成額(融資額)で見ると、109億米ドルにも達し、全体の約1割に及んでいる。ちょっと気になるところではある。

プロジェクトファイナンス案件というのは概ね「資源型」事業と「電力型」事業に分かれる、ということを見てきた。今般データ分析によって、この事実を実証的に裏付けることもできた。プロジェクトファイナンス案件が「資源型」事業と「電力型」事業に分かれる、というのはもちろん原則に過ぎない。原則には必ず例外がある。今般の分析で出てきた例外の3案件というのは、具体的には石油化学事業2件と石油精製事業1件である。例外の3案件なので、それぞれセクターも異なり互いに関連のない固有の事業なのかと思いきや、必ずしもそうではなかった。石油化学事業が2件ある。これは偶然なのであろうか。また石油精製事業は1件だが、石油精製事業というのは石油化学事業との間になにか共通する点でもあるのであろうか。

まず、石油化学事業と石油精製事業はプロジェクトファイナンスで資金調達をする例が昔から少なからずあった、という点を確認しておきたい。例えば、1990年代のタイやインドネシアには新規の石油化学事業や石油精製事業が林立し、それらの事業に多くの日本企業が関与していた。それらの事業の資金調達にプロジェクトファイナンスの利用が試みられている。因みに、筆者が1990年代初頭に邦銀プロジェクトファイナンス部在籍時に初めて主担当として関与したプロジェクトファイナンス案件はタイのポリエチレン事業(石油化学事業)である。バンコクの東南約200kmにあるマプタプット工業地帯(Map Ta Phut Industrial Estate)に建設するというので、バンコクから車で数時間かけてマプタプットまで現地視察に行った。現地周辺で食したタイ料理の辛さはバンコク市内のそれを上回っていたという記憶がある。新興国が重化学工業化の段階に達してくると、自国内に石油化学事業や石油精製事業を保有するようになるのは経済発展の自然の流れでもある。

1990年代のタイやインドネシアで石油化学事業や石油精製事業の林立を目の当たりにしていたので、当初筆者は自分が担当した石油化学事業というのはプロジェクトファイナンス案件の典型的な事業だとさえ思ったほどである。さらに筆者は10年ほど時代が下った2000年代初頭にも中国本土で欧州石油メジャーが主導する大型石油精製事業でリードアレンジャーの一行としてプロジェクトファイナンスの組成に携わった。つまり、筆者は「資源型」にも「電力型」にも分類されない事業にも随分関わった経験をしている。日本の企業にとってアジア市場は足元の地場市場に等しい。従って、アジア諸国で出て来る事業機会には積極的に関わろうとする。そういう事業機会の中には、重化学工業化の進展に伴い石油化学事業や石油精製事業が頻出する。

筆者自身が石油化学事業や石油精製事業に対するプロジェクトファイナンスに携わってきたので、これらの事業に対するプロジェクトファイナンスの組成は非常に難しいということは実感していた。その「非常に難しい」という実感や気付きに確信が伴うようになったのは、実は外資系金融機関に勤務するようになってからである。外資系金融機関ではプロジェクトファイナンス案件の採り上げ方針がしっかり言語化されていた。そして、その方針の中には「石油化学事業や石油精製事業は慎重対処」と明記されていた。そのとき筆者は「やはりそうなのか」と得心したものである。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Geoff Greenwood on Unsplash

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