2024.10.10
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第42回 PF組成しやすい事業(28)「資源型」と「電力型」の比較
2019.12.26 連載コラム
実際に組成されたプロジェクトファイナンス案件が「資源型」事業と「電力型」事業とにそれぞれどのくらいの割合で分かれているのか。前回はこの点をデータに基づいて実証的に分析した結果をまとめてみた。使用したデータは過去8年間(2011/4-2019/3)の計69件の日本企業関連のプロジェクトファイナンスである。さて、過去8年間の69件の日本企業関連のデータで分析した結果は、広く世界のプロジェクトファイナンス市場にどれほど当てはまるものなのか(分析結果の一般化や汎用性)という点について考えておきたい。
2018年1月から12月までの1年間で、世界で組成されたプロジェクトファイナンスの融資総額は2,827億米ドル(US282.7 billion)である(*1)。同じく2018年1年間で日本企業関連のプロジェクトファイナンスの融資総額は約91億米ドル(US9.1 billion)である(*2)。日本企業関連のプロジェクトファイナンスの融資総額は、世界のプロジェクトファイナンスの融資総額のうち3.2%(91億米ドル/2,827億米ドル)を占めるに過ぎない。つまり、今回のデータ分析の結果は、融資額ベースでプロジェクトファイナンス市場全体の3.2%のサンプルによるものである。しかも、任意の3.2%のサンプルではなく、敢えて日本企業関連のプロジェクトファイナンスに絞っていた。
日本企業関連の3.2%のサンプルで観てきたものは、市場全体にも当てはまるものと類推して良いものだろうか。これが冒頭で触れた分析結果の一般化や汎用性の問題意識である。話は少々変わるが、例えば、現在日本の有権者数は1億500万人存在する(*3)。国政選挙を控えての事前の政党支持率の調査や時折行われる政権支持率の調査などはサンプルの数がせいぜい数千人か多くても1万人程度ではないだろうか。仮に1万人に調査を行ったとしても、母数に対するサンプル数の割合はわずか0.01%(1万人/1億500万人)である。全体のことを隈なくすべて調べ上げるのは実際には甚だ困難なことが多い。現実的な対応として我々は全体のうちの一部を調べて、その結果を全体に類推するという手法をよく用いている。有権者の調査の場合もその一例である。
今回の日本企業関連のプロジェクトファイナンスを分析した結果は、プロジェクトファイナンス市場全体にどれだけ類推できるのか。筆者は今回の分析結果は、世界のプロジェクトファイナンス市場全体にもかなり当てはまるものとみている。その理由は、日本企業関連以外の(つまり、事業への出資者がすべて非日系企業の)プロジェクトファイナンス案件も筆者自身が観てきた経験があるからである。日本企業も非日系企業も出資者(スポンサーとも呼ぶ)としてプロジェクトファイナンスへアプローチする姿勢に大きな違いはない。従って、おおまかなところでは間違いなく当てはまると思う。もっとも、細部では多少の違いは出てくるかもしれない。
例えば、データ分析を案件数で見たときに、69件の日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件のうち、58件(84.1%)が「電力型」事業で、8件(11.6%)が「資源型」事業で、いずれにも該当しない案件が3件(4.3%)であった。案件数で見ると日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件は「電力型」事業の割合が圧倒的に多い。しかし、世界のプロジェクトファイナンス市場で見たときには、「電力型」事業の案件数の割合がもう少し減り、「資源型」事業の案件数の割合がもう少し増えるのではないかと推測している。その理由は、海外には日本企業が一切関わっていない「資源型」事業は多数存在しているからである。むしろ、日本企業が関与する「資源型」事業は「資源型」事業全体のうちのごく一部に過ぎない。従って、結果的に日本企業関連のプロジェクトファイナンスは「電力型」事業の案件数の割合がやや多めになっている可能性は高い。
実は筆者は今回のデータ分析の結果を見て少々驚いたのもこの点である。案件数で見たときに日本企業関連のプロジェクトファイナンスのうち「電力型」事業が8割強も占めていたのには驚かされた。そのときにも世界のプロジェクトファイナンス市場では「電力型」事業の案件数の割合はこんなに多くはならないのではないかと思った次第である。
- (*1)GLOBAL PROJECT FINANCE REVIEW Full Year 2018 by Thomson Reuters
- (*2)今般の調査で筆者が調べたもの。案件数は8件で、融資総額が約91億米ドル。
- (*3)総務省のHP。今年(2019年)7月に行われた参議院選挙投票日時点の日本の有権者数。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ Photo by Udayaditya Barua on Unsplash
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