2025.04.24
【コラム】第6回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(6)
2019.11.26 連載コラム
今回は、接収・収用・国有化以外の非常危険において、どのような場合に保険金が払われるか見ていきたい。
まずは為替交換の制限・送金規制である。このカバーは、貿易や投資・融資先国など相手国の外貨不足により、その国全体に為替交換の制限・送金規制がかかる場合と、ある特定の案件に限って為替交換の制限・送金規制がかかる場合が考えられる。いずれにしろ相手国が消滅しない限り、永久に為替交換・送金ができないということは考えにくい。すなわち、時間が経過すれば為替交換・送金ができることになるため、差し当たり保険金で賄うという意味で、このカバーはキャッシュフローの補完的な役割が強いといえる。
それでは、取引の種類によりカバーの内容を見ていきたい。物・サービスの売買を対象とした貿易取引のカバーでは、一般的に以下のような内容となっていることが多い。
取引先国の為替交換当局が、被保険者、取引先の責に起因せず、契約書上の通貨の交換・送金を妨げること。だたし、現地通貨が、契約書上の通貨を購入し、また送金するために、支払期日の90日以内に取引先の口座等に入金されていること、その交換・送金規制が待機期間中も継続すること、また取引先国おいて、法的に認められている他の為替市場が存在していないこと。
これが、融資契約における為替・交換の制限になると、表記が以下のようにもう少し詳細になる。1は借入人所在国政府の積極的な行為、2は借入人所在国政府がするべきことを行なったことを意味する。
- 借入先所在国政府(現地政府)の行為、または一連の行為であって、直接的または間接的に、被保険者または借入人が以下の事をすることを妨げること。
I. 予定している支払を行う為に、現地通貨から保険契約書上の通貨(通常は融資契約書上の通貨)へ交換すること。これには公式な為替レートと同程度のレートでの交換ができないことも含まれる。
II. 予定している支払を行う為に現地通貨から交換した保険証券上の通貨が、借入先所在国から送金できないこと。 - 現地政府が、予定している支払いを行う為に、被保険者または借入人が為替交換または送金をすることを認めないこと。
ただし、以下の場合に限る。
- 借入人が保険期間の開始時点で、現地通貨から保険契約書上の通貨ができ、かつ保険契約書上の通貨を被保険者所在国へ送金できていたこと。
- 借入人が待機期間中を通して、通貨の交換や送金ができないこと。但し、被保険者と借入人が、現地政府の法律、政令、規則に則り、それらの通貨を交換・送金するために相応の努力を行い、またこの保険がなければ使ったであろうあらゆる方法を試していること。
- 予定している支払を行う為に、現地通貨の第1回目の交換または送金を支払期日、あるいは支払期日の30日以内に行っていること。
また、投資に関する保険では、以下のようなカバーとなる。ここでは、主として、投資をした子会社からの配当金や被保険者から子会社への貸付金の返済が対象となる。ただ、注意が必要なのは、被保険者の自主的な意思で撤退する決断をし、投資先国で資産を売却し、その金員を日本に送金するケースである。この場合に為替交換の制限・送金規制がかかったときには、その解消にかなり時間がかかることもあり得る。そして、場合によっては新たな税金を現地政府から恣意的にかけられることも考えられる。AとBの違いは融資契約のケースと同じで、現地政府の積極的な行為か、不作為かである。
- 投資先国政府(現地政府)が直接的または間接的に投資先子会社(子会社)の以下の活動を妨げること
ⅰ. 被保険者に送金するために、子会社が受けとったまたは保有している現地通貨を保険契約書上の通貨に交換すること。
ⅱ. 被保険者へ送金する予定の保険契約書上の通貨を投資先国から送金すること。 - 現地政府が、子会社による通貨の交換・送金を認めないこと。
次回は、政治的暴力・戦争のカバーについて解説する。
須知義弘
【バックナンバー】
・【コラム】第5回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(5)
・【コラム】第4回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(4)
・【コラム】第3回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(3)
・【コラム】第2回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(2)
・【コラム】第1回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(1)