【コラム】(プロファイバンカーの視座)第43回 PF組成しやすい事業(29)「資源型」と「電力型」の比較

2020.01.09 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


ここ数回のコラムでは日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件の情報を収集し分析した結果について論じている。今回もこの点をもう少し考えてみたい。日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件を案件数で見たときに、「電力型」事業が8割強を占め圧倒的に多いということが分かった。その理由として、海外には日本企業が関わっていない「資源型」事業は多数存在しており、むしろ日本企業が関与する「資源型」事業は「資源型」事業全体のうちのごく一部に過ぎないからであろう、と推察した。

この点をもう少し踏み込んでみると、ではどうして日本企業は「資源型」事業にあまり関わることがないのか、あるいは関わろうとしないのか、という次の疑問が湧く。これは甚だ興味深い論点である。この理由の一つとして考えられるのは、日本企業はそもそも「資源型」事業よりも「電力型」事業を選好しているのではないか、という仮説である。石油・ガス(LNG)、鉄鉱石、銅などの資源開発事業である「資源型」事業は市況の変動によって収益が大きく左右される。海外の資源開発事業には日本企業では特に大手の総合商社が出資者として関わることが多い。日本の大手総合商社は昨今資源分野の投資ポートフォリオを抑制する傾向が強くなってきた。市況の変動によって収益が大きく左右される総合商社の収益構造について、株式市場の見方は厳しい。資源価格の市況変動に収益の影響を受けやすい大手総合商社の株価は伸び悩んでいる、という見方もある(注)

さらに、日本企業は「資源型」事業よりも「電力型」事業を選好しているという仮説を後押しする事情もある。それは日本の金融機関の融資姿勢である。日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件に最も積極的に融資を供与しているのは日本の金融機関である。いわゆる日本の3メガバンクをはじめとした民間銀行、政府系金融機関、生命保険会社などである。日本企業関連のプロジェクトファイナンス案件では、これらの日本の金融機関がプロジェクトファイナンスレンダーの中軸となっている。これらの日本の金融機関はプロジェクトファイナンス案件の中で「資源型」事業よりも「電力型」事業の方が得手である。言い換えれば、「資源型」事業は不得手である。そもそも「資源型」事業はプロジェクトファイナンスの中でも分析が複雑である。「資源型」事業に見られる価格変動リスクや埋蔵量リスクの評価は容易ではない。従って、日本の金融機関でプロジェクトファイナンスを行っていると標榜していても、専ら「電力型」事業を採り上げている場合が多い。日本の金融機関の一部では「資源型」事業を(ほとんど)採り上げていない。日本の金融機関は、残念ながら「資源型」事業へのプロジェクトファイナンスの知見の蓄積が少ない。

この点について、筆者は最近も興味深い体験をした。筆者は某日本企業(クライアント)から業務を受託して、海外の油田権益買収案件の仕事をした。クライアントは某国に所在する生産中の油田の権益の一部を買収することを企図していた。その際、買収資金の一部をプロジェクトファイナンスで調達したいと考えていた。筆者の受託した具体的な業務内容は、クライアントのために油田権益向けのプロジェクトファイナンス組成を支援することである。クライアントは一方で油田権益の売主との交渉を進めながら、他方でプロジェクトファイナンスでの資金調達を固めてゆく。このプロジェクトファイナンス案件では買収する油田権益にレンダーが担保を設定するほか、同油田権益から得られるキャッシュフローがレンダーにとっての唯一の返済原資になる。この種の融資は業界でリザーブ・ベース・レンディングとも呼ばれており、事業は典型的な「資源型」事業である。プロジェクトファイナンスレンダーは当該油田権益の経済的な評価ができないといけない。

クライアントと筆者はレンダー候補になりそうな金融機関複数に打診を図った。日本の主要な銀行と東京に支店を持つ欧米の銀行である。これらの銀行と相談を続けてゆくうちに、日本の銀行は早々に脱落してしまった。その理由は当該油田権益の評価が上手くできなかったからである。結局プロジェクトファイナンスの供与を約束してくれたのは欧米の銀行ばかりであった。

(注)2019年12月末時点での日経平均の予想株価収益率(PER)は14.4であるが(https://www.nikkei.com/)、大手総合商社の予想株価収益率はこれを遥かに下回っている。2019年12月末時点での大手総合商社6社各社の予想株価収益率は次の通りである。三菱商事8.4、三井物産7.5、住友商事6.8、伊藤忠商事7.6、丸紅5.9、双日6.1。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Fré Sonneveld on Unsplash

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