【コラム】第9回　民間の貿易保険（取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険）の活用について（9）

ナレッジパートナー：須知 義弘

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読者にはあまり馴染みがないかもしれないが、今回から2回にわたって、プロジェクトを遂行していく上でとても重要なカバーである「仲裁結果の不履行（Arbitration Award Default（AAD））」について説明していきたい。このカバーは、保険会社によっては「契約不履行（Breach of Contract）」と呼ばれることもあるが、ここではAADという言う方で、統一する。

まず、どのような取引の場合にこのカバーが必要になってくるのか、以下の図1をご参照いただきたい。

（図1）

これは日本の金融機関が、外国Aで発電事業を行う特別目的会社に融資をし、その返済資金は国営電力会社に電力を売った代金を充当するという取引である（プロジェクトファインナス）。借主である特別目的会社は、もし国営電力会社との売電契約が不履行になれば、金融機関への元利金払いも滞ってしまう。従って、金融機関は万が一この売電契約が不履行になった場合のリスクヘッジをしておく必要がある。また、スキームとしては似ているが、融資ではなく、投資のケースは図2の通りだ。

（図2）

図1のケースと同じように、日本の事業会社は、特別目的会社と国営電力会社間の売電契約が不履行になれば配当金が入ってこない上に、最悪の場合、プロジェクト自体が破綻してしまい、投資金額自体が回収できなくなってしまう。このような場合にまず行うべきことが、契約（今回の例では売電契約）に規定された紛争解決手段に基づいて、行動を起こすことである。今回の紛争解決手段は、シンガポール国際仲裁センターによる仲裁と仮定する。

そもそも仲裁のプロセスは、１）契約の相手方（今回の例では国営電力会社）が債務不履行を起こす　２）金融機関/事業会社または独立発電業者が契約に規定された紛争解決手段に基づき、仲裁を提起する　3）金融機関/事業会社または独立発電業者に有利な仲裁結果が出る　4）その仲裁結果を執行することにより元利金、投資額を回収する、という流れになる。但し、ここで問題となるのは、仲裁結果に基づき執行したのに（或いは執行しようとしたのに）、金員を回収できないことだ。これをカバーするのがAADである。AADの典型的な約款（金融機関向け）は以下の通りである。

従い、このカバーを有効に機能されるためには、明らかに相手方に非のある債務不履行だとしても、仲裁にいかなければならないことに注意する必要がある。

次回はこのAADについてもう少し深堀していく。

須知義弘

*アイキャッチ　Photo by Daniel Abadia on Unsplash

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