【コラム】(プロファイバンカーの視座)第49回 プロジェクトファイナンスの参考図書(2)

2020.04.09 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


前回に続き、プロジェクトファイナンスの仕事に役立つと思われる関連書籍をさらに3冊ご紹介したいと思う。

リチャード・ローズ『エネルギー400年史』草思社(2019年)

著者は米国人のジャーナリストである。これまで原子力の問題などを採り上げてきた。本書は書名の通り、近代のエネルギーの歴史を扱っている。蒸気機関(石炭)、石油、ガス、原子力、再生可能エネルギーといったエネルギーの歴史を通史として鳥瞰できるところが魅力である。

筆者が本書をお勧めする理由は、プロジェクトファイナンスではエネルギー関連の事業に関わることが多いからである。組織の一員として海外事業やファイナンスに取り組んでいると、案件はどこかから自ずと現れてくるような印象を受ける人もいるかもしれない。ましてや、若手の方は上司から指示されて案件の担当になる。「なぜ、この事業が今求められているのか」「なぜ、この国でこの事業が必要なのか」こういった背景や理由を理解することができると、仕事に対するモチベーションは当然上がる。背景の理解には、まずエネルギーの歴史を押さえておくことが欠かせない。本書は近代のエネルギーの通史をざっくり掴むのにお勧めの1冊である。

●渥美坂井法律事務所編著『海外エネルギープロジェクトの契約実務』中央経済社(2019年)

海外のプロジェクトファイナンスの仕事では融資契約書はもちろんのこと、その他の商業契約書もすべて英語である。しかも、準拠法は日本法ではなく、英国法やニューヨーク州法であることが多い。英語でかつ準拠法が外国法である、という点は普通の日本人会社員にはなかなかハードルが高い。慣れるまでに時間がかかる。その理由はもちろん、英語ができるだけでは十分ではないからである。昔、帰国子女の日本人の同僚が英文契約書中のある文章を誤って解釈していたという出来事に筆者は遭遇したことがある。普段は流暢に英語で会話できる方であっても、英文契約書の読解は別物なのだということを痛感した出来事である。さらに、大学で法学部に所属していた人でも、英国法やニューヨーク州法を学ぶ機会のある人はそう多くはないはずである。いずれも日本の大学の法学部では選択科目であることが多く、履修せずに卒業できる。

本書は日本の法律事務所の弁護士複数の方々が分担して執筆した書籍である。執筆者はいずれも日本の弁護士資格に加え、ニューヨーク州法などの外国の弁護士資格を持ついわゆる国際弁護士の方々である。海外ビジネスに関わる英文契約書の日本語書籍はこれまでにも随分出版されている。そういったこれまでの書籍と本書との大きな違いは、本書は電力売買契約書、LNG売買契約書、融資契約書などプロジェクトファイナンスの仕事に密接に関連する契約書を具体的に採り上げている点である。極めて実務的なところも特筆に値する。もっとも、本書は、英文契約書の入門書ではないのでご注意頂きたい。

●今井伸、橘川武郎『LNG – 50年の軌跡とその未来』日経BPコンサルテイング(2019年)

日本が初めてLNG(液化天然ガス)を輸入したのは1969年11月である。輸入元は米国アラスカ。LNG船が着岸したのは東京ガス根岸工場(横浜市)。昨年(2019年)11月でちょうど50年が経過した。本書は日本のLNG輸入50周年に合わせて、その軌跡と将来についてまとめた本である。LNGについてまとめた一般向け書物というのは、実はそう多くはない。本書はLNGを包括的に理解するのに欠かせないものになろうと思う。著者の今井伸氏は斯界に詳しいジャーナリスト、橘川武郎氏はエネルギー問題を専門とする東京理科大学教授でおられる。

筆者はプロジェクトファイナンスの仕事の中でも特にLNGの分野に関心を持ってきた。それはプロジェクトファイナンスの世界で重要な分野だからである。重要な分野になってきた理由はいくつかある。一つは、LNG事業は多額の資金調達を要する点である。プロジェクトファイナンスの案件の中では一案件当たりの融資金額が大きい。二つ目に、気候温暖化の問題である。石炭火力発電所の新規建設が困難になり、代わってガス火力発電所が興隆してきた。特にアジアや新興国のガス火力発電所では燃料となる天然ガスをLNGの形で輸入するケースが増えてきた。三つ目に、米国でシェールガスの生産量が増加し、同国でのLNG輸出事業が興隆してきたからである。そして最後に、日本は世界で最大のLNG輸入国であり、LNG関連の産業(LNG船の運航、LNGプラントの設計・建造、LNG関連設備の製造等)が発展しているからである。本書はLNG業界を理解するための道標として、関係者に広く読まれてゆくものと期待する。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Patrick Robert Doyle on Unsplash

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