【コラム】(プロファイバンカーの視座)第53回 キャッシュフロー・コントロール手法(4)体系概観

2020.06.11 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


今回からいよいよキャッシュフロー・コントロール手法の具体的な内容を見てゆく。キャッシュフロー・コントロール手法にはさまざまな手法が存在する。いずれもプロジェクトファイナンスの実務の現場で永年に亘って蓄積されてきたノウハウである。プロジェクトファイナンスにおける諸々のキャッシュフロー・コントロール手法を見てゆくと、大きく2種類に分けることができる。2種類と言うのは、プロジェクトファイナンスの案件なら必ず利用されているものと案件ごとに工夫を凝らしているものとである。プロジェクトファイナンスの案件なら必ず利用されているものを、ここでは便宜上キャッシュフロー・コントロール手法の「基本モデル」と呼ぶことにする。そして、案件ごとに工夫を凝らしているものをキャッシュフロー・コントロール手法の「応用モデル」と呼ぶことにする。呼称を分けることによって、両者を明確に区別しておきたい。従って、キャッシュフロー・コントロール手法は、下記の図のように、基本モデルと応用モデルに二分することができる。

さて、それでは、キャッシュフロー・コントロール手法の基本モデルとはどんな手法を指しているのであろうか。また、キャッシュフロー・コントロール手法の応用モデルにはどんな手法があるのであろうか。それぞれの内容を見ておきたい。

キャッシュフロー・コントロール手法の基本モデル

まず、基本モデルであるが、これは前述の通り、プロジェクトファイナンスの案件なら必ず利用されているキャッシュフロー・コントロール手法である。これらは次のような手法の一群である。

これらの手法は、プロジェクトファイナンス案件なら必ず組み込まれていると言っていい。もし、いずれかが欠けているとしたら、それはレンダーの手違いの可能性が高い。それくらいプロジェクトファイナンスでは極当たり前のキャッシュフロー・コントロール手法である。

キャッシュフロー・コントロール手法の応用モデル

次に、キャッシュフロー・コントロール手法の応用モデルであるが、これは案件毎に工夫を凝らしている手法の一群である。文字通り案件毎に工夫を凝らしているものなので、実は一概に捉えるのが難しい。ここではこれまで比較的頻繁に用いられているものを採り上げてゆく。過去の案件で頻繁に利用されてきたものを整理すると、次のような手法を応用モデルの典型例として挙げることができると思う。

キャッシュフロー・コントロール手法のうち基本モデルは、プロジェクトファイナンス案件なら必ず組み込まれていると言っていい、と先に述べた。一方、応用モデルについては、そのいずれもが組み込まれていないプロジェクトファイナンス案件というのも存在する。つまり、基本モデルの手法しか組み込まれていないプロジェクトファイナンス案件である。例えば、有力な買電者との間に長期の売電契約を有する火力発電案件はその好例であろう。長期の売電契約を有する火力発電案件は、キャッシュフロー・コントロール手法のうち基本モデルしか組み込まれていないのが普通である。

なお、上記に挙げた応用モデルは案件毎に工夫を凝らすものなので、これらのうち一部のものは今後内容が変容してゆく可能性がある。さらに新種の手法が出現してきて、これらの一部を代替してゆく可能性もある。そういう意味では応用モデルについては限定的・固定的に捉えるのはよくない。あくまでこれまでの実例として理解し、今後も応用を続けてゆくことが肝要だと思う。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Josè Maria Sava on Unsplash

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