【コラム】(財務モデリングの最先端)第15回 財務モデルにおけるデータの型(Data Type)とは(2)

2020.06.05 連載コラム

ナレッジパートナー:川井 文哉


第14回のコラムにて、財務モデルにおけるデータの型 (Data Type) は、定数データ (Constant Data)、時系列データ (Time-series Data)、リストデータ (List Data)、テーブルデータ (Table Data) の4種類あると述べた。今回は、やや応用となるリストデータおよびテーブルデータについて解説を行う。

リストデータ (List Data) とは

第14回のコラムにて、定数データ (Constant Data) とは時間の経過概念がない、もしくは時間が経過しても変化しない数値のことだと述べた。リストデータとは、定数データが複数行のデータとしてまとまっている際に使用する。例を挙げると、以下のような項目となる。

  • 商品単価リスト(商品A単価、商品B単価、商品C単価など)
  • 費用項目リスト(固定費項目A、固定費項目B、固定費項目Cなど)
  • 耐用年数に応じた税率リスト

例えば、来年度から発売される新商品の単価について考えてみよう。ただし、新商品は1つではなく、新商品A、B、C、D、Eの5つの商品を同時に発売する予定となっており、長期間にわたって一定の価格で販売をする予定となっている。この場合、A単価、B単価、…、E単価とそれぞれの定数データを5つ作成しても良いのだが、リストデータを使うとこれら5つをまとめて「新商品単価」として1項目として扱うことができる。

また、モデルの中で項目の内訳を作成したい場合などにもよく使用する。例えば、PL の勘定科目として「その他固定費」という科目があるものの、その内訳項目について柔軟に変更していきたい場合などに、その他固定費の内訳科目としてのリストを作成しておき、後から内容を柔軟に変更するといったやり方が行われる。「人件費」「保険料」「業務委託費」などと定数データを1つ1つ追加しても良いが、リストデータを使うと「その他固定費項目」として1項目として扱うことができるのだ。

その他一般的な項目として税率を入力する際にリストデータをよく用いる。例えば、定率法の償却率は耐用年数ごとに法令で定められているため、耐用年数をある程度柔軟にシミュレーションしたい場合は、耐用年数と対応した償却率のテーブルをモデル内に持っておく必要がある。このような際に2年から50年までの償却率を定数データで作ると、49項目になってしまうが、リストデータを使えば1項目として扱うことができる。

上記の例のように、複数の定数データをまとめて1つのデータとして取り扱うことができるというのがリストデータの特徴だ。

テーブルデータとは (Table Data) とは

最後に、時系列データ (Time-series Data) とリストデータ (List Data) の両方の成立を持つのがテーブルデータ (Table Data) だ。時間の経過に従って変化する項目が複数行にわたって存在する場合に用いる。リストデータの場合、定数データをまとめて1つのデータとして取り扱うことができると述べたが、テーブルデータの場合は複数の時系列データをまとめて1つの項目として取り扱うことができる。例を挙げると、以下のような項目となる。

  • 商品単価テーブル(商品A単価、商品B単価、商品C単価など) (商品単価が年ごとに変化する場合)
  • 固定費費用テーブル(固定費A、固定費B、固定費Cなど) (固定費の内訳金額が年ごとに変化する場合)
  • 為替レートテーブル(JPY/USD、JPY/EUR、JPY/AUD など)

先ほどの例と同じく、新商品A、B、C、D、Eの5つの商品を同時に発売する予定となっているが、毎年販売価格が変化するケースを考えてみよう。このような場合、新商品Aから新商品Eは、それぞれを見ると時系列データとなるが、テーブルデータを使えばこれらを1項目として扱うことができる。固定費などについても同様だ。

また、為替レートについてもレート別の時系列データを作成しても良いのだが、様々通貨レートをまとめてテーブルデータにしておくと非常に便利だ。

リストデータとテーブルデータの特徴

リストデータやテーブルデータの特徴は、複数行のうち必要な項目のみを好きな時に取り出して使えるという性質がある。リストデータの例を用いると、「その他固定費」のリストの中から「保険料」のみを取り出して使うこともできるし、税率テーブルから「耐用年数15年」の税率だけを取り出して使うこともできる。為替レートをテーブルデータとして1項目にまとめておくのも、費用項目ごとに異なるレートを用いて計算したい時に、いちいち JPY/USD、JPY/EUR などと個別に設定するのではなく、為替レートを1項目として毎回使いまわすことができるからだ。

この性質を用いて、例えば「その他固定費テーブル」の中から「1億円以上の項目」だけを抽出するといったような使い方も可能だ。特に、抽出条件が変化したりするような複雑なモデルを構築する際には、リストとテーブルを多用することになる。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
川井 文哉

*アイキャッチ Photo by Alex on Unsplash

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