【コラム】(財務モデリングの最先端)第11回 IRRの落とし穴

2020.03.27 連載コラム

ナレッジパートナー:吉村 翔


IRRとは

プロジェクトファイナンスにかかる投資検討の現場において、定量的な投資判断材料としてIRRは一般的な指標である。IRR は、投資金額や投資期間、リターンプロファイル等、投資条件が異なる案件の比較を可能にする。なお、理由は後述するが、通常財務モデル内で目にするIRR計算の手法においては、実際にその利回りで運用できると考えるよりは、上記の通り複数事業の収益率や基準利回り(ハードルレート)との比較を行う場面においてより有効に活用できる。

IRR が表すもの

IRRはあくまでも収益性を表す指標であり、多くのリスク要素については加味されていない。例えば、同じIRR 10%の投資案件でも、スタートアップ企業に対しての投資でIRR 10% はリスクに見合わない投資であると考えられるが、比較的安定的なキャッシュフローを創出するインフラ投資であれば同じIRRでも魅力的な投資と考えることできる場合もある。このように事業リスクに見合うリターンの目安に対して、対象事業のIRRがどのような水準なのかを検討する必要がある。

また、回収期間やエクスポージャーもIRRでは計測することができない。いくらリスクが低いと考えられる事業への投資でも、回収できるのが何十年も先の場合や、会社の調達能力を超える投資額が必要であれば、いくら IRR が高水準であっても投資対象にすることはできないであろう。

このようにIRRは収益性を表す指標であり、投資検討を行う際には必ず他の指標との組み合わせで活用することが必要である。

IRRの隠れた前提

一般的にエクセルを用いてIRRを計算する場合には、IRR関数またはXIRR関数が用いられる。あまり現場において意識されることが少ないのだが、両者は創出されたキャッシュフローは同じ利回りで再投資されるということを前提としている。永続的な企業活動を前提とする事業の価値評価手法などでは、上記のような再投資に係る前提も整合性が担保されるが、運転期間が定められているインフラプロジェクト等の事業評価においても同様の前提で評価することが適当であるかは議論の余地があると考える。本稿の最初に「実際にその利回りで運用できると考えるよりは、上記の通り複数事業の収益率や基準利回りとの比較を行う場面においてより有効に活用できる」と述べた理由はこのためである。実際の利回りを精緻に計算する必要があれば、再投資利回りについても適切に考慮し、計算に織り込む必要がある(なお、再投資利回りを考慮可能なMIRR(Modified IRR)という指標も存在するが、本稿での詳細説明は省略する)。一方で、複数投資の横比較や社内で規定されているハードルレートとの比較という活用方法においては、比較対象間で前提条件を揃っていることの方が重要だと考えられる。

まとめ

IRR は非常に便利な指標であり、エクセルを用いれば計算も用意に行うことができる。ただし、そもそもIRR がどのような判断材料になるか、またその前提としている事象はなにかなど、適切に理論を理解した上で活用することが求められる。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
吉村 翔

*アイキャッチ Photo by Brett Jordan on Unsplash

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