【コラム】(財務モデリングの最先端)第8回 財務モデルにおけるシートの機能

2020.02.14 連載コラム

ナレッジパートナー:川井 文哉


財務モデルでは、エクセル内部で様々な計算や入力が様々なシートにまたがって行われている。一般的なアウトプットである「PL」、「BS」、「CF」といったシートが作成されることもあれば、「Tax」、「Depreciation」といった勘定科目のシートが作られることもある。時には「入力前提」「サマリー」といった要素ごとにシートが分類されていることや、「資料20200101」などといった元資料の名前がついているシートなどもある。今回は、財務モデルを作成する際にどうシートを分解すれば良いかについて、基本的な考え方やルールについて解説をしていきたいと思う。

シートは項目別の分類ではなく、機能別に分ける

数多くの財務モデルをレビュー・再構築してきた経験に基づいて言えば、計算項目ごとにシートを分けるといったやり方が最も一般的なようだ。例えば、減価償却費、税金、材料費内訳、人員計画、などのように特定の項目やテーマごとにシートを作成するといった具合だ。しかし結論から言えば、シートは項目ごとにシートを作成するのはあまり良いやり方とは言えない。このような分類方法は、シート名と計算内容が対応しているため、一見分かりやすいような分類ではあるものの、計算値やグラフ、入力前提が入り乱れる形となり、モデルを後から変更する際にメンテナンスがしづらい構成となってしまう。筆者がオススメするやり方は、シートをまず機能に基づいて分類する方法だ。財務モデル内のシートを、アウトプットシート、計算シート、インプットシートの3つに概念的に分け、アウトプットシートには計算結果、インプットシートには前提条件の一覧を表示し、計算シート内でモデルの計算を行うといった構造的な階層を作る。

それぞれのシートにおけるルール

アウトプットシートは、アウトプットのみを表示するためのシートだ。アウトプットシートでは、計算結果を表示するのみで、アウトプットシートの中で計算を行ってはいけないし、またアウトプットシートの中で前提値が入力されているセルがあってはいけない。モデルの最終的な計算結果である案件リターンや、財務諸表などを表示するシートがアウトプットシートにあたる。

モデルの中核部となるのが計算シートは、入力前提値から最終的なアウトプットにいたるまでの計算を全て行うシートだ。計算シートでは、アウトプットに関係のない計算を行ってはならないし、またアウトプットシートと同じく前提値が入力されているセルがあってはいけない。モデル内の計算を行う心臓部であり、PL計算、BS計算などと財務諸表ごとに計算シートを分けるケースが多い。

インプットシートは、入力前提値の一覧のみ表示してあるシートだ。インプットシートでは、入力前提、つまり値貼りのセルが並ぶのみで、計算を行ってはいけないし、グラフや計算結果といったアウトプットに関連する項目を表示することも許されない。入力前提一覧については基本的にシート1枚にまとめることが多いが、建設期間を含むプロジェクト等の場合、運転期間と建設期間でインプットシートを2枚に分けることもある。

また、3種類のシートに共通する重要なルールとして、全ての時系列に対応する列を揃えておかなければならない。例えば、財務諸表の時系列データの開始時点が 2016年で、シート内のN列から始まっているとすると、全てのシートにおいて2016年はN列から始まっていなければならない。また、1つの時系列粒度に対して1つのシートを用意することも重要だ。月次の財務諸表と年次の財務諸表がモデル内に2つある場合は、「財務諸表」という1つのシートにまとめてはならず、「財務諸表 年次」、「財務諸表 月次」という形で2枚のシートに分けて表示をする必要がある。

実際の案件におけるシート構成例

例として、実際の案件で使用したシート構成の例を下記に記載する。当然、案件が特定されないよう一部の名称を変更しているが、構成自体は実際に使用しているモデルのものだ。

Output>
FS J-GAAP A
FS J-GAAP SA
FS IFRS A
FS IFRS SA
PPA BD1
PPA BD2
Input>
Operation
Construction
Calc>
PL Calc
BS Calc
Construction Calc

本件は、石炭火力のプラント案件であり、PPA (Power Purchase Agreement)を前提とした売電事業だ。シートの一覧を見ていただくと、「Output>」、「Input>」、「Calc>」という形でディバイダ―、つまり仕切りとなる空シートを挟み込むことによって、全てのシートがアウトプットシート、インプットシート、計算シートの3種類の分類されている。

シートを機能別に分類するメリット

このようにシートを機能別に分類することで、モデルの全体構造について透明性を担保することができる。例えば減価償却費を変更したい際には、そもそも減価償却費の項目を増やしたい場合はアウトプットシートを変更する必要があるし、計算内容を変更したい場合は計算シートを編集することになる。前提値だけを変更するにはインプットシートで入力値を変更すれば良い。このように、項目ではなく機能別にシートを分類することで、モデル変更の際にも、アウトプットが増えたのか、計算が変わったのか、前提条件が変化したのか、など変更箇所の特定が容易にできる。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
川井 文哉

*アイキャッチ Photo by Barbara Zandoval on Unsplash 

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