【コラム】(財務モデリングの最先端)第3回 財務モデリングにおいて知るべき原理原則

2019.11.22 連載コラム

ナレッジパートナー:吉村 翔


財務モデルに取り組む際に必ず知るべきFASTの概念

第2回目のコラムにおいて、財務モデルを構築するといっても、すぐにExcel作業に取り掛かれるわけではなく、先んじて決めるべき事項があることを述べた。 本コラムでは、実際に財務モデルを効率的に組んでいくために必要とされる以下の4つの原理原則を説明する。

F:Flexible(柔軟性)
A:Appropriate(必要十分性)
S:Structured(一貫性)
T:Transparent(透明性)

こちらは、財務モデリングプラクティス発祥の地であるイギリスの非営利組織the FAST Standard Organisation Limited (FSO)が提唱している概念であり、元々属人的な性質の強かった財務モデリング業務の標準化を目指して作られたものである。最近では業界内にて広く知られるものとなり、財務モデリング業務に関わる全ての方に一読することをお勧めする。

以下では、4つの原理原則を順番に解説していく。

F:Flexible(柔軟性)

モデルとはシミュレーション分析を行うためのものである。つまり、特定の前提条件について計算を行うだけのものではなく、様々な前提条件のもとで計算が正確に行わる必要がある。柔軟なモデルとは、多くのモデル利用者にとって、前提条件の変更や結果の確認が容易なものとなっているモデルである。よく誤解があるのだが、あらゆる場面を想定して複雑に組まれた天才にしか理解できないモデルは、決してここで定義している「柔軟なモデル」にはなり得ない点には留意が必要である。逆に、柔軟なモデルとは得てしてシンプルに作成されているものである。

A:Appropriate(必要十分性)

財務モデルは、対象ビジネスを抽象化(モデル化)した上で、エクセル上に数理計算として表現されたものである。つまり、リアルな世界を一定程度単純化するという作業が必要なのだ。その際に単純化しすぎると必要な情報が得られない一方で、リアルな世界を忠実に表現しようと思うと、あなたの睡眠時間は奪われる一方であろう。モデルの必要十分性とはそのバランスのことを指している。この必要十分性は、本稿で紹介する4つの原理原則のうち最も経験則が要求されるものだと考える。従って、どのようなモデルを作成するか議論を行う際には、経験豊富なメンバーを適切に巻き込むことをお勧めする。

S:Structured(一貫性)

財務モデルは、モデル作成者だけが理解できていれば良いというものではない。上記にてモデル柔軟性を論じた際の言及点の繰り返しにはなるが、モデル利用者が適切に理解し、使いこなせる必要がある。そのためには、ワークシートの配置やセルフォーマット、数式の組み方について、一貫したルールに基づき作成されている必要がある。ルールの共通理解を図り、それ基づき作業を行うことは、モデル作成者以外の理解促進だけでなくモデル作成者自身の作業効率も格段に向上させる。

T:Transparent(透明性)

モデル内に含まれる計算ロジックのわかりやすさについて言及しているのが、モデルの透明性である。筆者が意識しているのは、プリントアウトしても(セル内の数式をみなくてもラベルとその並びで)、そこに存在する計算ロジックが理解できるかという判断基準である。 モデルの透明性を向上するために必要なキーワードは細分化。財務モデルの透明性を低下させる一番の要因は、長い数式である。筆者が実際に経験したものだと、Excelの数式バーで10行を超える数式を見せられた時に、愕然とし一瞬にして思考を奪われた記憶がある。 もし、数式があなたの親指2本分の長さを超えたら、そこには間違いなく複数の条件分岐やタイミングの設定などが含まれているはずだ。それらをひとつずつ分解して、エクセルの複数行を使って記述していくことで、間違いなくあなたのモデルの透明性は向上する。

まとめ

FASTの概念は、財務モデリングに携わるすべての人が理解すべきものだと考える。財務モデリングは、絶対に一人だけで完結する業務ではない。上司や交渉相手とコミュニケーションをとる必要性は必ず存在するし、財務モデルを通じたビジネスノウハウの継承も非常に効率の良い手段である。FASTを通じた財務モデル品質の標準化は、財務モデラーのレベルアップは当然のこと、組織力の向上ももたらすものと信じている。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
吉村 翔

*アイキャッチ Photo by Clint Adair on Unsplash

【バックナンバー】
【コラム】(財務モデリングの最先端)第2回 Excelに取りかかる前に決めるべきこと

【コラム】(財務モデリングの最先端)第1回 財務モデルの目的

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