【コラム】(財務モデリングの最先端)第7回 循環計算の解決策

2020.01.31 連載コラム

ナレッジパートナー:吉村 翔


第6回のコラムにおいて、循環参照を避けるべき理由について述べた。本稿では、循環参照を避けるための解法とその留意点について、簡単な例を用いて3つほど紹介する。 なお、第6回のコラムで述べている通り、エクセルの反復計算機能に関しては使用を推奨していないために本稿の対象外とする。

期首残高に利率を乗じて計算

以下では、毎期元本充当される利息計算(建設期間中の借入金計算などで用いられる)を題材として、循環計算の解法を紹介していく。まず初めに紹介するのは、各期の利息を期首残高 x 利率で計算する方法である。これが適用できない計算も存在するが、適用できる場合には最もシンプルに循環参照を避けることができる方法である

留意点としては、当期の増減を考慮していない計算となっているために、当期の残高増減が大きい場合には、利息の金額について実際の発生額との乖離が生じる可能性がある。特に建設期間などキャッシュフローに焦点をあてた分析が必要な際には、細かな時間粒度(例 月次、四半期等)とするなどの留意が必要である。

また、計算の前提として、各期のキャッシュフロー(この場合は借入増減)が期末に発生することを想定することになるため、NPVやIRR計算において期央主義を想定する場合には、一部整合性が失われてしまう点は認識しておく必要がある。

コピー & 貼付マクロを使用

期首残高ではなく期中平均残高を用いたい場合には、簡単なマクロを使用することが一般的である。マクロの使用については、計算の透明性が失われるため、できる限り避けることが原則であるが、一定レベル以上の財務モデラーであれば苦労なく使いこなすことができるシンプルなものであり、実務的にもよく使われている。

ただし、留意点として以下の2つは認識すべきである。

1つ目は、モデルのFlexibilityが失われる点である。前提条件(モデル入力値)を変えた際に、自動的に適切な再計算が実行されるものが財務モデルであるが、このマクロを使用する場合、関連する前提条件を変更した際にはマクロを実行しないと再計算が行われない。

2つ目は、上の例では説明を簡潔に保つために使用を避けたが、本来は必ずコピー対象範囲および貼付範囲に名前の定義をしなければならない。これを怠った場合、モデルの行列に変更があった場合に、その都度マクロも修正しないとならない。

代数的解法の適用

期中平均を用いる場合にも、マクロを使用することなく中学レベルの数学を用いることで解決することも可能である。本ケースでは、以下の2つの方程式を解くだけで期中平均残高を用いた利息計算が可能である。

利息 = (期首残高 + 期末残高) / 2 x 利率
期末残高 = 期首残高 + 利息

留意点としては、入力される数式について直感的に理解が難しい可能性が多い。ただし、事業投資を生業としてやっている方であれば、適切な説明を隣接セクションに掲載することで理解できる内容であろう(基本のプラクティスとして、モデルの透明性を向上するため、モデル内に説明書きを加えることは推奨される)。

このような循環計算に関する代数的解法は、海外の財務モデリングファームがベストプラクティスとして推奨している例もあり、実務においてもこのような解法が用いられているモデルをよく目にするようになっている。

まとめ

前回から2回にわたり財務モデリングに携わる専門家内でも長年議論がなされている循環計算に関して取り扱ってきた。前回のコラムでは、循環参照は財務モデルにおいて絶対に使うべきでなく、その理由を述べた。そして本稿では、循環するロジックを組む込む必要がある場合の解法について、3つの例を紹介した。今回は計算対象として借入金および利息計算を題材として取り扱ったが、計算対象が変わった場合にも応用が利くアプローチなので、実務でモデルを構築する機会がある方々には是非習得されることを推奨する。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
吉村 翔

*アイキャッチ Photo by Dawid Małecki on Unsplash

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