【コラム】(財務モデリングの最先端)第9回 Debt SizingとDebt Sculpting

2020.02.28 連載コラム

ナレッジパートナー:吉村 翔


プロジェクトファイナンスにおける財務モデルでは、当然ながら借入金の計算の重要性が非常に高い。基本的な借入条件等はタームシートに記載されているが、その交渉過程では様々な検証作業が財務モデルを通じて行われる。本稿では、プロジェクトファイナンスのモデリングを行う際に混同されがちな2つの重要な概念について、財務モデリングの観点から紹介する。

Debt Sizing(デットサイジング)

Debt Sizingとは、特定のプロジェクトにおけるプロジェクトファイナンスによる調達金額を決めるプロセスのことを指す。単純化した説明とはなるが、Debt Sizingの分析には、主に建設コストに対する借入比率およびDSCR(Debt Service Coverage Ratio)の2つが最も重要な指標として用いられる。DSCRを用いることで後述するDebt Sculptingと混合されることがよくあるが、Debt Sizingを行う際にはDSCR基準が保たれている限りどのような返済プロファイルであるかの議論はしていない点に留意が必要である。なお、一般的に建設コストに対する借入比率は6:4~7:3、DSCRは1.00~2.00の間で設定されるといわれているが、各プロジェクトの事業内容、スキーム、およびその他の様々なリスク要因を精査した上でプロジェクト毎に決定される。

Debt Sculpting(デットスカラプティング)

プロジェクトから生み出されるキャッシュフローは当然ながら各年によって異なる。そのため借入金の返済負担をプロジェクト期間において平準化し借主貸主双方のリスク低減を図るために、借入金返済前キャッシュフロー(CFADS)に対して一定比率の借入金元利返済額が計算される。当該比率のことをDSCR(Debt Service Coverage Ratio)であり、このキャッシュフローの収入と支出のマッチングプロセスをDebt Sculptingと呼ぶ。

財務モデルにおける分析プロセス

Debt Sizingを行い分析のベースとして決められた調達金額については、想定されている借入期間で返済することが要求される。そのため、上記の想定調達金額に対しDebt Sculptingを行い返済プロファイルの検討を行った結果、多くの場合は再度Debt Sizingの分析が必要なる場合がある。このように循環するように分析を行う必要がある両者は切っても切り離せない関係性があるものの、財務モデルを用いた分析はステップバイステップで実施する必要がある。そのため、常に今どちらに焦点を当てて分析・議論しているのかを適切に意識し両者の混同を避けることで、効率的な分析や建設的な議論に繋がると考える。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
吉村 翔

*アイキャッチ Photo by Markus Spiske on Unsplash

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