【コラム】(財務モデリングの最先端)第38回 財務モデルにおける名前の定義の活用(2)

2021.06.18 連載コラム

ナレッジパートナー:川井 文哉


第37回のコラムでは、Excel のデフォルト機能である「名前」について、その概要と基本、および財務モデルにおけるメリットを紹介した。第38回のコラムでは、名前の定義について少し実務に踏み込んだ点から、デメリットや活用の手順等について解説を行う。

名前の定義を使うデメリット

名前の定義を使うデメリットは2つある。1つ目が、名前の定義を知らないと参照先のセル番地が分かりにくいという点。2つ目が、一旦定義した名前の削除・変更といった管理に技術を要する点だ。

名前の定義はエクセルのデフォルト機能だが、実はあまり知られていないため、名前の定義そのものを知らない人が見ると、数式の意味にかえって混乱することもある。また、数式内の名前が対応するセルの場所が一目で分からないため、名前の定義を知っている人であっても参照先の探し方を知らないと、数式のチェックができない。また、セルに名前を定義する操作は簡単なのだが、一度定義した名前を変更したり、定義した名前を削除するには、少しエクセル内で手順を踏む必要がある。

名前の定義を使う上で活用すべきツール

上記で述べたように、名前の定義を使うにはデメリットも存在するが、Excel の機能やツールを活用することで回避できる。1点目の参照先のセル番地については様々な方法があり、他の記事でも詳しく述べているが、参照先を調べたいセルを選択して、エクセルの基本ショートカットであるCtrl + [ を押すことで、一番最初の参照先へジャンプをすることができる。また、サードパーティー製のナビゲーションツール Arixcel などを使うことで、名前の定義に関係なく、簡単に複数の参照先を移動することができる。

また、セルの名前を定義したり、削除したりするには Name Manager というExcel の機能がある。しかし、デフォルトの機能である Name Manager は操作性が悪いため、私は Jan Karel Pieterse 氏が作成・提供している JKP Name Managerという外部のアドインを使っている。これらのツールを活用することで、容易に名前の定義を変更したり、削除したりすることが可能となる。

JKP Name Manager
https://jkp-ads.com/officemarketplacenm-en.asp

名前の定義の実務基礎

最後に、セルに名前のつける実務的な方法をご紹介しよう。実は、名前を定義する方法はいくつか存在する。

  1. 名前ボックスに名前を入力する方法
  2. 名前の管理ダイアログから新しい名前を作成する方法
  3. 選択範囲から名前を作成・再定義する方法

1 の名前ボックスに名前を入力する方法については上記の例で説明したが、実は 1 と 2 の方法については操作性が悪く実務的ではないため、ここでは現場で使う 3 の方法について解説する。先ほどの Apple と Orange の合計を L18 で計算したと思うので、このセルに FruitTotal という名前を付けるケースを考える。まず、名前を付けたいセル (L18) の右隣のセル (M18) に、定義する名前をテキストで FruitTotal と入力する。

余分なセルを挟まず、必ず右に隣接するセルにテキストで入力する必要がある。次に、L18 と M18 の2つのセルを選択して、Ctrl + Shift + F3 のキーを押す。すると、選択範囲から名前を作成、というダイアログボックスが出てくるので、右端列にチェックがついていることを確認して、OKボタンを押す。

これで、L18 に FruitTotal という名前を定義することができた。L18 を選択して、左上の名前ボックスに FruitTotal と表示されるか確認してみよう。名前ボックスに FruitTotal が表示されていれば、L18 に名前が正しく定義されている。

まとめ

今回は2回にわたり名前の定義の概要や、財務モデルにおけるメリット、デメリットを紹介した。名前の定義については多少デメリットが存在するものの、それを上回る十分なメリットや、デメリットを回避できる手法やツールが存在するため、是非ワンランク上の財務モデルを作成するために活用して欲しい。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
川井 文哉

*アイキャッチ Photo by Tamara Malaniy on Unsplash

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