【コラム】(財務モデリングの最先端)第32回 Sカーブ理論を用いたCAPEXモデリング②

2021.03.05 連載コラム

ナレッジパートナー:吉村 翔


前回は、特に石油・ガス採掘のインフラ系プロジェクトの財務モデルにおけるCapex(設備投資)をシミュレーションするための理論の一つとして、Sカーブ理論を紹介した。本稿では、Sカーブ理論を財務モデルに表現するために必要なパラメータや関数について紹介する。

まず、必要な数式は以下の2つのみである。

$$f(x)=C*\frac{1}{1+e^-x} )$$

$$x=-\frac{t}{2} +\frac{t}{p}*n$$

C:総コスト
t:t係数
p:期間の長さ
n:モデル期間番号

以下で各係数について説明する。 Cは、見積りの総コストを使用する。厳密には、見積り総コストから調整係数を加味する必要があるのだが、ここでは省略する。

t係数は、Sカーブの形状を決定する係数であり、小さい値であるほど平坦な形状(均等な発生スケジュール)となる。tはどんな値でも取り得るが、前回紹介した通り、EPCフェーズにおける資金拠出負担を反映するという観点から、通常は10-14の設定されることが多い。以下に他の係数を一定とした場合のt=10、t=12、t=14のSカーブを図示している。

pは、例えば建設期間が4年間で当該期間の支出をSカーブで月次モデルに反映したい場合には、4年 x 12ヵ月=48となる。もし、建設遅延などの感度分析を実施したい場合には、こちらの係数を調整する。 nは、建設開始からnヶ月後を表す期番号である。

ネイピア数e(EXP関数)を使う点は少し難易度が高いと思うかもしれないが、それ以外については単なる四則演算であり財務モデルに落とし込むのも容易であろう。是非一度手を動かしてExcel上で作成してみて欲しい。思いのほか、シンプルな数式として表現することが可能であると感じるのではないだろうか。

一度財務モデルに落とし込めてしまえば、プロジェクト期間において発生しうる様々な事象に対応するシミュレーションが可能となる。以下では、例えば、コストが20%多く発生してしまうケース、建設期間が6か月長いケースにおけるSカーブを図示しているが、それぞれパラメータを1つずつ(Cおよびp)動かすことで簡単に作成可能である。

もちろん実際の支出スケジュールが利用可能となれば、当該数値を財務モデルに直接入力値として反映するのが、最も正確なCFモデル作成方法となるのだが、当該データが揃っていない初期的な検討時や、上記の例のようなコストオーバーランや建設遅延による影響など、財務モデルを作成する上で常に必要とするような感度分析を実施する際には、Sカーブ理論を用いたCapexスケジュールの作成およびシミュレーションは非常に有用なものである。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
吉村 翔

*アイキャッチ フォトZbynek BurivalUnsplash

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